4 Kittens play



「こっちのノートが予習用で、これが復習用」
紙で綴られたノートには隙間なく文字が埋め尽くされ、逆にケイの机の正面のモニターに出されたノートは、整然とまとめてあり余白も多く見易い。
ケイは両方を見比べながら、自分のノートの取り方の類似点や相違点を探し始めた。
彼のまばたきも惜しむ真剣な眼差しは、フェイズが確認しなくても感じ取ることが出来た。
「参考になるかな」
「うん、沢山勉強してて凄い。真面目過ぎる。やっぱこれだけやらなきゃダメだよなぁ」
「ケイの部屋からパスコード無しで見られるようにしたから、全部いつでも勝手に見て構わないよ」
「いいの?ありがとう」
フェイズは紙製のノートをパラパラとめくり、最近の授業範囲を開いた。
「それと予習の方は、これも最初は余白も多くとって、後から書き加えてる」
「あ…、ほんとだ」
教科書には載ってない、教師の話した内容が書き足されている部分を幾つも見つけた。
「ちょっと聞きたいけど復習の方は音声入力?」
「ううん、キーボード。音読みしながら打つ時もあるけどね」
項目ごとのまとめ方、重要語句の色分け、練習・応用問題の引用など教科別に時間を掛けて説明していく。
「これで一通り話したと思うけど、何か質問はある?」
「先生、質問があります」
「はいケイ君」
「フェイズ君は天才って聞いたから、ノートもろくに取らなくても頭が良いと思ってました。これはどういうことなんですか」
予想外の質問に呆れながら答える。
「………僕にそういう特殊な能力はないよ…?」
「なーんだ。そうなのか」
「残念そうな顔しない」
稀にノートの一部をケイやそれ以外の友達に見せることはあっても、全部というのは初めてだった。
学習の到達度は教師が見る責任があり、大人に聞く方が正しい解答を得られるため、子供同士で教え合う事は珍しいのだ。

ふたりは今になって就寝時刻を過ぎている事に気付いた。
「喉が渇いたから水を飲んでくるよ」
そう言ってフェイズがゆっくりと席を立つと、ケイは「僕も」と続いて椅子から離れた。
「隙あり!」
フェイズはふざけてケイにゆるいラリアットを掛け、一緒に倒れ込んだ。受け止めたのは柔らかなベッド。
「何するんだよ」
少し怒りながら緑色の頭を両手で掴み、ぐしゃぐしゃと髪型を乱して反撃をすると、ふたりは完全に遊びモードにシフトした。
フェイズはノーガードのケイの脇腹をくすぐり、手を離させた。くすぐったくて笑うと、フェイズはそれを面白がって笑った。
ケイはフェイズの両手首をしっかりと掴みそれを止めさせ、起き上がると、彼の脚を取って四の字固めを掛けようとする。
それを察したフェイズは素早くケイの手から抜け出し、ついでにベッドから離れ、枕をつかんで相手の顔に目掛けてふわりと投げつけた。
投げた直後に再びベッドに飛び込み、ケイを押し倒す。
「分かった、参った」
頭で押さえた枕ごしに、息苦しそうなケイの声が聞こえた。ふざけるのに満足したフェイズは身体を起こして枕を外した。
「もう降りて」
「……」
マウントポジションを取っていたフェイズはケイの言う通りに彼から離れ、宙を見た。
「あーあ、ホコリが舞ってる」
「君のせいだろうね」
「ごめん。責任取ってここで寝るよ。もう眠いし、今日はこのまま泊まってもいい?」
謝っているように聞こえない言い方にケイは面倒臭くなってツッコミをやめた。身長140cmに満たない子供ふたりにはベッドの広さに余裕があった。断る理由も特に無い。
「まぁいいけど、風呂には入れ」
「朝起きたらシャワー浴びるよ。水だけ飲んでくる」
喉が渇いていたのは本当だった。

ふたりは洗面所で水を飲み終え、ついでに歯磨きとトイレを済ませた。フェイズだけ睡魔に襲われてふらつきながらケイの部屋に戻って行った。
ケイは男子用の浴室に寄り、入浴してから部屋に戻ると、親友は既にベッドの上で仰向けになって熟睡していた。部屋の灯りは点いたままだった。
とりあえず眠くなる直前まで勉強方法を教えてくれた事に対しては、明日お礼を言おうと思いながら、ケイはフェイズの寝顔を盗み見た。
寝顔は普段より幼く見える事に気付いた。
静かにベッドに上がって空いているスペースで横になり、壁にあるスイッチに触れると灯りは消え、少年達は安息の闇に包まれた。

眠っている時はとても無防備で、2〜3才は幼く見えてしまう。
「(フェイズの寝顔を見るのは構わないけど、逆に僕の寝顔を見られるのは少し恥ずかしいかもな…)」
ケイはそんな事を考えながら、今より幼かった頃の自分達を思い出していた。
眠気で頭が鈍くなったせいなのか、過去の記憶がぶつ切りになっていた。
もしかしたら大人になった時、もっと沢山の事を忘れてしまうのかも知れないと、ケイは怖くなり必死に出来る限り遡って過去を思い出してみた。
そして思い出せる記憶は全て思い出したと思った時、やっと彼は睡眠に辿り着いた。


朝が訪れて自動的に明るくなった部屋の中で、先に起きたフェイズは物音を立てないようにシャワールームへ向かった。
勿論眠っている少年は、寝顔を盗み見られ返された事は知らないままだった。





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