3 The first step



極夜明けの翌朝、宇宙開発に関係するニュースが飛び込んできた。地球人に技術提供した亜空間ワープが、初めて彼らの手によって実施されたという内容だった。
ふたりは昼食を終えると急いでケイの部屋に入った。それは単に食堂から近い部屋を選んだため。
子供達の個室はそれぞれ机とベッドとクローゼットが詰められた狭くてシンプルなもので、必要最低限の持ち物しか無かった。
ただしケイの部屋には共有物から勝手に持ち込んだ動植物の模型が幾つか並べられていて、特にボルボックスの上にゾウを載せ、玉乗りさせているのが彼のお気に入りだった。
机の前面のモニターにニュースを映し出すと、ふたりは食い入るように見た。
『先日、太陽系3号星で行われた亜空間ワープドライブの実験報告が今朝届きました。政府の発表によりますと−−−』
ナレーションが続く。

「この管制室にエルダー人は居る?事故っても地球人だけでどうにか出来るの」
ケイがワープ実験の成功に沸く管制室の映像に、疑問を持った。そこには地球人しか居なかった。
「多分、地球の一般市民向けの映像の使い回しなんだと思う。どこかに居るよ」
フェイズは答えた。
地球人に最新の技術を教える事にエルダーでは賛否両論があり、ケイは否定派だった。それはケイ自身が、地球の歴史に軽く興味を持った時、地球人が絶え間ない争いをしていると知ったせいだった。
「ほら、ちゃんとエルダー人も付いてる」
補足された解説にはエルダー人技術者が安全のために終始確認作業をしている事を伝えていた。
「ふーん…。でも地球人なんかにエクサリチウム結晶を扱えるのか十分怪しい」
「……」
フェイズは、ケイと地球人の話をするのは少しやり辛いと思い始めた。
ニュースの最後に、月基地にて船から降りる宇宙飛行士の姿が映し出された。しっかりした体格と精悍な顔の異星人を、フェイズは目に焼き付けた。文明の遅い地球人だけど、この人からは何か学ぶべきものがあると。
昼休みの終了が近づいて、ケイは言った。
「次の授業まで時間がないからそろそろ戻ろう」


折しも午後からは亜空間ワープの初歩的な原理を学ぶ現代物理の授業だった。しかし実際に宇宙船やそのワープエンジンを造るにはまだまだ遠い内容。
しんと静まり返った教室で、31人の子供達は見た目だけは若い男性教師の話を聞いている。
「ワープエンジン内部で電荷が正反対の反粒子からできた物質、つまり反物質が対生成する時、同時に虚数の角運動量を持つ素粒子も発生します。
スピンネットワークの時空間方程式により、この空間は亜空間と呼ばれる二次的なフィールドが形成され、尚且つ虚時間を持つために物体の光速を越える移動が可能となりました。
この空間を作るのに必要なエクサリチウム反応の値を求める公式は……」
教室に設置されたスクリーンに数式が出ると、子供達はそれを書き写した。
ケイはペンを走らせながら、フェイズがどんな風にノートを取っているか気になったので、後で見せて貰おうと思った。



長い午後の授業が終わると、フェイズはケイを連れて進路指導担当の教師に相談しに行った。
学業や生活上の悩みなどを相談するための小部屋を使う事になり、ふたりは少し緊張しながら席に着いた。
女性教師は話を聞くと暫く考え込んでから確認をした。
「3年後か〜。今のままだと間に合わないから、補習と自習が必要だけど、大丈夫?やれる?」
フェイズの答えは決まっていた。
「はい、大丈夫です」
「それなら今から3年間の時間割を作るから、安心して勉強しなさいね」
「あの、僕も受験するんだけどなんとかなりますか」
ケイは部屋に入って初めて喋った。
「ケイ君も受けるのね。君達は選ばれし者なのだから、やる気があればなんでも出来るよ〜」
「じゃあフェイズだけ合格するなんて無いですよね?僕だけ浪人はしたくないです」
「大丈夫。大丈夫。それにしても親友っていいねぇ」
ふたりの普段の仲の良さを知っているので、微笑みながら教師は言った。
自分達のような関係を親友というのか、とふたりは指摘されて初めて気付いた。
「えっと、はい、フェイズが親友で良かったと思います」
ケイは思わず言ってしまったものの、それが正しかったのかよく分からないでいた。



カリキュラムを明日中に組む話まで進め、ふたりは相談室から退席すると、金色の髪の少年がいた。
「なんの相談してたの?それよりゲームしない?」
少年の言うゲームというのは地球のバスケットボールに似た球技の事だった。どうやら人数が足りないようだ。
「そのうち分かるよ。悪いけど今は無理」
フェイズはあっさり断るとケイを見て言った。
「ノートを見たいって言ってたよね。ケイの部屋でもいい?ノートの取り方、君に合うか分からないけど、良かったら参考にしてみてよ」
やっぱり妙に優しい気がすると、ケイは思った。
今までならボール遊びに加わったかもしれない彼は、親友に行動を合わせる事にした。




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