5 Our new start



「家」で学んでいた期間の学習到達度と教師の推薦文、大昔から変わらない大量のペーパーテスト、そして簡単な面接の4点が、合否を決める方法だった。
飛び入学にも拘わらずフェイズとケイが合格を決めたのは、元々「家」ではレベルの高い授業が行われていた事にも理由があった。
余程の事がない限り合格の可能性は高く、ふたりは過度の緊張をせずに試験や面接を受け、生まれて初めて訪れた北極大陸はそのまま住む場所になった。
学生達は後に知る事になるが、一定の高い学力があれば全ての子供達は入学を許され、その人数も国家の計画を順調になぞるだけだった。



「3年前は結構ビビってたのに、受験も大した事無かったね」
受験生に用意された宿舎から総合科学研究所の学生寮へ移る為に、荷物をまとめながら、ケイは言った。
「ケイなら大丈夫って僕が何度も言ってたから、僕のおかげかな」
「あーはいはい、そういう事にしておくよ。フェイズはもう荷物まとめた?」
ケイは軽く流しながらもいつも難しい問題を教えてくれた彼の姿を思い出した。
「もう済んでる。寮へは歩いて行ける距離だけど、一緒に行くよね?何処かに寄る?」
ドア付近でフェイズはケイの荷造りを眺めながら待った。ケイは笑いながら返事をした。
「ここに来て置いてきぼりは無いでしょ」
“ずっと一緒にいたい”このひとつの願いの為に、遊ぶ事も控え目にして頑張ってきた3年間を、ケイはゆっくり噛みしめた。



合格通知に同封された入学案内書には、学生寮の部屋番号が書かれていた。
宿舎と寮を結ぶ通路では他の合格者も移動を始めていて、誰もがこのふたりより年上のようだった。
フェイズは歩きながら案内書を広げた。
「僕達の部屋は11203号室だって。窓はないけど、地上の建物みたいだね」
「地上なんだ。凄いな」
全ての市民が地下生活をしていた環境から見ればただそれだけで珍しい。
エレベーターで上がり、ドアの前に着く。そのプレートには11203。
既に虹彩の生体認証は登録されていて、ドア横のパネルに手を掛けると簡単に開いた。同時に真っ暗な部屋に明かりが点いた。
「2人部屋かな?」
ケイは尋ねる。
「だといいけど、4人部屋かもしれないよ。…あ、2人だ」
思ったより広いのは、入口近くにランドリー、バス、トイレがあり、ダイニングキッチンを経由してから部屋が続いていたため。
ダイニングには小さめのテーブルに椅子が2つしかなく、これを見てフェイズは2人部屋と答えた。
更に奥の部屋に進むと左右対称に机とベッド。ベッド周りには天井から遮光カーテンが付けられていた。
今まで個室で暮らしていたせいか少し戸惑いつつも、その相手が気心知れた者同士なら何も問題は無い。
それどころか新しい環境には心強いかもしれない、そうふたりは思った。

数秒間部屋を見渡した後、フェイズは自分の荷物を床に降ろすと、ゆっくりとケイを抱き締めた。
フェイズは少し緊張気味の声で言った。
「一緒に来てくれてありがとう」
子供達に嬉しい事や悲しい事があった時、「家」にいた大人達は優しい抱擁で愛情を教えた。
ケイは自分と似た体格の少年から感謝の抱擁を受け、大人がするそれとは似ているようで何かが違うと思った。

世界で1番大事なひとが目の前に居る実感が、体温と共に伝え合い、他人という境界を失いかける。

「僕の方こそ、連れてきてくれて、ありがとう」



静寂が破られた。
「いらっしゃい!新入生だね?名前はなんて言うのかな?」
少女の高い声が響いた。びっくりしたふたりは体を離し、少女を見た。
フェイズより濃い緑髪の持ち主は続けた。
「あっ、ごめんね。私はローズって言うの。この辺の1年生は私が面倒みることになってるからさ、よろしくね」
ふたりはドアを閉めてこなかった事を思い出した。
「フェイズです。宜しくお願いします」
「僕はケイと言います。宜しくお願いします」
「フェイズ君とケイ君だね。君達、ひょっとして飛び入学の子?」
「はい、一応…」
自慢にならないようにフェイズは濁しながら答えた。
「へぇ〜若くていいね。まだ紋章も無いみたいだし。寮の事や学校の事、なんでも訊いてね。
クラブが決まってなかったら、剣術においで。おやつも出るよ」
「はい、ありがとうございます」
ふたりは口を揃えて言った。
「うん、イイコ達だね。遅くなったけど合格おめでとー。じゃーねー」
緑色のポニーテールを振りながらローズは忙しそうに次の部屋へ向かった。



再び部屋が静かになると、生活必需品を入手すべく購買部に出掛け、新たな講義の予習などに取り掛かった。
星間調査団に入るためには、科学的な知識や技能以外に呪紋や剣術といった付加価値があればもっと優位になれると、少年はこれからこなしていく課題の量を思い、胸の内に闘志を燃やしていた。





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