恋着


「ちょっと早くしてよ遅れちゃう!」

「待ってすぐ行くから!」

あれから数年、私達二人はやっと夫婦になり子供が三人もいる。長女の伶美、長男の拓真、次女の裕美どの子も元気に育ってやんちゃ盛りだ。
今日は裕美の卒業式、晴れていて陽気もいい。隣を歩く零はもう涙目で相変わらずである。昔は非情な人だと思っていたけれど、付き合っていくうちにとても人間くさくて優しい人だとわかった。

「もう泣いてるの?裕美に笑われちゃうわ」

「まだ泣いてない!」

「はいはい。泣いてないのね」

「君も会場に行けば泣くよ」

「そうね」

「そうだよ。僕と君は泣き虫なんだから」

「ねえ零、私達もうおばさんね」

「もう孫だっていてもおかしくないさ」

「私零と結婚してよかった」

「……もう一回言って!」

「一回だけ。二度目はないわ」

零が右頬を膨らませてなんだか不満げだ。私はそれを横目に歩く。桜が綺麗に舞い、私は思わず立ち止まる。花弁が雨のように落ちる様はなかなか幻想的で思わず零に綺麗ね、と声をかけた。「僕も同じこと考えてた!」とあまり老けていない顔で、昔と変わらない笑顔を見せるので思わず笑ってしまう。

「あ、なんで笑った!?」

「零かーわいい」

「可愛いって言うな!」

「あ、今度こそ遅刻しちゃう!零はやく!!」

「置いてかないでくれって!!」

零自慢の長い脚であっという間に距離が縮まった。
私の手を引いて走る様はまるで王子様だ。絶対に口にはしないけれど私は零にベタ惚れなのである。


  
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