*ED(4〜5年?)後、捏造気味注意
ここまで来ておいて、今更ながら私はその一歩を踏み出せないでいた。
あの旅の後、ラジルダでのんびりと暮らしていたある日、大親友のクレアから手紙が届いた、それは嬉しかった。いや、今も嬉しいのだが。
―――私、結婚したの!―――
文面からでもハートが飛び出しそうな、弾むような文字。
――今度結婚式を挙げるから、キオノもきっと来てね――
そりゃ…行くよ。というかスールズに来たは来た。
―――ヴェイグもキオノに会いたがってるわよ―――
ちゃんと見なくてもわかる。
クレアと、ヴェイグが、結婚、した。
嬉しい。ようやくヴェイグの気持ちに気が付いたかクレア。ちょっと遅い気もするけど結果オーライだよね!
もう今すぐにでも彼女の体に飛び付いて、おめでとうって言いたい。
それは、本当、だよ。
よかった。二人が幸せになれて。ヴェイグの気持ちが報われて。
やっぱり、言わなくて正解だった。
あの旅が終わったら―――
なんて柄じゃないし、…この気持ちを伝えたところで意味ないのわかってたし。
そう。素直におめでとうを言えばそれでいいじゃない、私。
頭に強く言い聞かせても、足は地面に縫い付けられたように動かない。
………クレア、きっとウェディングドレス似合うだろうな。
………隣に立つヴェイグも、きっとかっこいいだろうな。
………二人とも、お似合いなんだろうな……
想像する度、心踊る気持ちと、重く腫れぼったい気持ちが比例して増していく。
「はぁ……」
立ち尽くしてから何度目の溜め息だろう。
本当、私の意気地無し。
「……何してるんだ」
―――え。
不意に掛けられた懐かしい声。
ここにいるはずのない姿。
「――へっ!?ヴ、ヴェイグ!?」
「………あぁ、久しぶりだな」
パニックを起こした私に、ヴェイグは驚きつつも頷いた。
久々に見るヴェイグは前より背も三つ編みも伸びていて、すらっとした印象はそのままだった。
変わったけど変わってない。そのことに安堵している私がいて、でも、と思い直す。
もう違う。違うんだ。
ちょ、ちょっと待って。何で新郎がこんなとこ出歩いてるの。
「ヴェイグこそ何やってるの!?」
「?、オレは、キオノがまだ来ていないから――」
「私を迎えに来たの?…そんなのヴェイグじゃなくてもいいじゃない!」
「……オレじゃ、嫌だったか?」
違う!!と言おうとしたら、ヴェイグは表情を曇らせて目を伏せていた。
なんだか捨て犬のようなそれに、あぁこんな顔もするようになったんだ、と思って、気づく。
これもあの旅とクレアのお陰なんだな、なんて、今更。
「そ、そうじゃなくて!なんでわざわざ今日の主役が迎えにくるのかって、そういう意味!」
「―――は」
私の言葉に、ヴェイグはポカンと口を開けた。
本当表情豊かになったんだな…――じゃなくて!
「あーもう!迎えに来てくれてありがとう早くクレアのところに戻ってあげなさいほら行くよ!」
早口で捲し立てて、逃げるように歩き出す私。あぁもう何これ。凄く可愛くない。
「キオノ」
「…………」
ずんずん歩く私にも、ヴェイグは難なく私の隣に並んで、口を開く。
「さっきの、どういうことだ」
「………何が」
「…主役がどうとか」
「………………」
言わせないでよ。
のろけのつもり?
「だから、クレアとヴェイグの結婚式でしょ。あぁおめでとう」
半分自棄で言ったら、胸がキリリと痛んだ。
「……………」
返事が全くないのでちらりとヴェイグを窺うと、何ともいえない微妙な顔。
どうしたらよいのか戸惑った…というより困った、というような気まずそうな表情。
「……………キオノ」
「………何」
「何がどうなったのかよくわからないが、たぶん誤解だ」
「へ?」
「ほら、着いたぞ」
スールズの集会所。
一番奥に座る、笑顔のクレア。
そして隣に座る―――――
*****
「騙された」
キオノはさっきからこれしか言ってない。仕方ないと言えば仕方ない、あれだけ飲んだのに、まだ酒を注いでいるのだから。
止めたがずっとこの調子だ。
「……大丈夫か、本当に」
「私の覚悟はなんだったのよ〜…」
……大丈夫じゃなさそうだ。
「へぇへぇわかってますって、きちんと手紙読まなかった私が悪いんですよぉ〜だ」
「……………」
こういう拗ねる所とかを見ると変わってない。酒が回っているせいで、膨らんだ頬っぺたは真っ赤になってて、…その、可愛い。
「ていうかさぁ、ヴェイグさんはどういうことなの?」
グラスを煽って、また新しく酒を注ぎながら彼女はようやく違う文章を紡いだ。いや、意味も脈絡もないが、この際いい。
「………どういう意味だ」
「あ〜んなにクレアのこと好きだったのに、なに、結局告白しなかったわけ?」
「―――――――は?」
――一体全体何を言い出すかと思えば。
「今、なんて言った?」
「ぇえ……?」
「オレが告白?…クレアに?」
「だってそうじゃん………」
そう言ってまたグラスに口を付けるキオノ。
あぁ、ようやく見えてきた。だからあんな誤解もしたのか。
「……クレアは、家族だ。だから大切だし、好きだ」
「……………」
「だけどな、俺がもっと大切にしたいのは―――――」
「……………………」
「キオノ?」
キオノは動かない。耳をすますと、机に突っ伏した後頭部から掠れるような寝息が届いてきた。
「…………全く」
隠していた花束を出す。彼女が来る前にやったブーケトスで、花束をわざわざ俺の方に飛ばしてウインクしてみせたクレアが思い出される。
「………キオノ」
「………………」
「キオノも、オレと――」
「………ヴェ…」
「!」
起きていたのかと思わずびっくりする。…が、どうやら寝言のようだった。
「…ィ…グ……ばかぁ…」
「………」
今のはオレの名前だったのだろうか、ばか、しか上手く聞き取れなかった。
「………まぁ、いいか」
傍らにブーケを置いて、僅かに覗いた寝顔を見つめる。
「いつかでいいから、その時は誤解しないで聞いてくれよ」
毛布を取りに行くために、席を立つ。
酒の残ったグラスから、カラリン、と返事が聞こえた。
氷が溶けるまで。
(仕方がないから待つよ)(その間ぐらい、好きでいていいよな?)
*****
1ヶ月ぐらい前から温めてたやつ←
どうやってオチようかなとか考えてたらなかなか進まず……消さないでよかった。
クレアちゃん誰と結婚したんでしょうねコレ。……ユ、ユージ(黙れ
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