*未プレイにつきキャラ崩壊注意
*企画からお越しくださった方→Re name
えぇ、それはもう驚きましたよ。
こんなジジィになってから、まさか成人にも満たない少女にこんな言葉を贈られるだなんて。
「私は、貴方のことが好きです」
突然の言葉というのも勿論ありましたが、私が驚いた理由はそれだけではありませんでした。
「私のことを、ご存知でいらっしゃいますか?」
その声は、姿は、遠い昔に見たあの可憐な彼女そのものだったのですから。
にわかには信じがたいですが、私は今、何十年も前に出会ったあの頃ままの彼女と対峙しているのです。
「……キオノさん、なのですか?」
今でも頭にはっきりと残るその名前は、もう呼べることはないだろうと思っていました。
ですから声に出したときの響きは、そう、まるで古ぼけたアルバムに触れ、分厚く被った埃をこの手ではらっているような感覚でした。
そして目の前の少女の微笑みは、遥か昔の彼女のそれと重なり、私の古ぼけたアルバムを開く鍵となったのです。
*****
『私は、ずっと後悔していました。』
彼女としょっちゅう顔を合わせるわけではありませんでした。
ただ時々、私はあの花屋を訪れ、彼女と僅かな言葉を交わしたのです。
『貴方がお店に来てくれる日を、いつかいつかと待つ日常が、きっといつまでも続くのだろうと思っていました。』
キオノはとても美しい心の持ち主だと思ったのを覚えています。
お互いの時間をたっぷり重ねたわけではありません。
しかし店内に並ぶ彼女の育てた花を見れば、一目瞭然でした。
私はその花達を見るのがとても好きでした。
『最後に貴方が来てくれた日から、伝えられなかったこの気持ちを、私は後悔の念と共にずっと抱いて生きたのです。』
そう。結局、あの町から私は離れてしまった。
『貴方には、とても素敵な言葉や時間を、そして素敵な心を頂きました。
その感謝も含めて、この気持ちを貴方にお伝えしないままでいるのは、どうしても惜しかったのです。
今更綴るこの気持ちを、そして私の最期の言葉を、どうか貴方に贈らせてください。――』
*****
「お嬢さん、貴女は………」
「はい、………私は―――
彼女の孫です。」
「……そうでしたか。そっくりです」
「ふふ……小さい頃からおばあちゃん子だったからか、よく言われます」
そう少女は微笑んだ。
「おばあちゃんは先日……病気で亡くなりました。
この手紙を受け取ったのは亡くなる直前でしたが、私は今までに貴方の――ローエンさんの話を度々聞いていました。」
だから、おばあちゃんの最期のお願いを叶えたかったし、どんな人なのか、私自身知りたかったんです、と少女は話してくれた。
「さっきは突然言ってしまってごめんなさい。
どうか、おばあちゃんの気持ちを受け取ってあげて下さい」
少女はもう一度、手紙の最後の一文を口にする。
『私は、キオノは、ローエンさんのことが好きです。』
「……貴女は彼女に本当にそっくりですよ。
特に、その優しい心が」
私は、古ぼけたアルバムを締めくくる最後の言葉をなぞる。
「…………私も、キオノさんのことがずっと好きでした」
少女はそれを聞くと、「笑顔がとっても素敵だったって、おばあちゃんが言った通りでした」と笑ってみせた。
それは、小さな壷がようやく開花したような、心が満たされるような美しさを秘めていた。
時をも、世代をも超えて。
(両思いおめでとう、おばあちゃん)
******
「夢時間泥棒」様に提出させて戴きました。
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