*現パロ








暖かな日溜まりは、柔らかく揺れるカーテンと共に部屋に零れていて、穏やかに眠気を誘う。

つい先程も、漂う春の香りを楽しんでいたのだが………何気なくやろうとしたそれに、ここまで苦戦するとは。


と、そこに、1LDKの部屋のドアの向こうで、ガチャガチャと鍵を回す音が聞こえた。


彼が帰ってきたのだろう。


すぐさま立ち上がり彼を迎えに行く―――――という以前は当たり前だった行為だが、今の自分の体では咄嗟に出来ることではなくて、ほんの少しもどかしく思った。




「お帰り、リオン」

「……あぁ」


後ろ手でドアを閉めながら、藤色のシャツがよく映えるリオンが無表情で答える。

……昔からこんな調子な彼だが、私はそんなリオンの優しさをちゃんと知っている。リオンが手に提げていたスーパーの袋をテーブルにがさりと置いたのを見て、少し申し訳ない反面やっぱりどこか嬉しい自分がいた。



「ごめんねリオン、全部任せちゃって……」

「毎回謝るな、もう慣れたと言っているだろう。くどい」



一見辛辣に聞こえる言葉も、リオンなりの優しさの現れだったりする。
なんてルーティに言ったら、「もーっ面倒くさいわね!!」と唇を尖らせていたっけ。



「………………で、キオノ、

お前は何がしたいんだ。」


リオンが、呆れたような、訝しげな目を私に寄越しつつ続ける。


さりげなく再チャレンジを試みて(必死に試行錯誤して)いたところをズバリと突っ込まれ、私はなんとも気まずい苦笑いをするしかなかった。





「…………帰ってきて早々悪いんだけど、また一つお願いしていいかなぁ」

「……………」

「……あの、えーと


………足の爪、切って欲しいなぁーなんて………」




――――あ、リオンがポカンとしてる。あのリオンがポカン顔してるよ。おぉっなかなかレアな物が見れた。


とか言ったら「やはりキオノはキオノか………」と頭を抱えられてしまった。な、なんかごめんなさい。



でもそんなこと言いつつ、やっぱりリオンは優しい。



「わっちょ、く、くすぐったいよー!!」

「煩い、というか動くな!大人しくしろ!!」



足の裏をこそこそと撫でられて、思わず身をよじったらリオンに怒られた。
ぎゃあぎゃあと言い合う中、光るのは彼の握る銀と、薬指にはめられたお揃いの銀。


まぁ確かにごもっともなお怒りだったので頑張って耐えていると、ぱちん、と弾けるような音が聞こえ始めた。


銀の爪切りが、きもちのいい乾いた音を鳴らす。


いつの間にかくすぐったさなんてどこかに消えて、弾ける音を聞く度に、私の気持ちも弾んだ。


ぱちん。


「………こんなことも出来なくなるのか」


ぱちん。

リオンがぼそりと呟く。


「うん……ちょっと前までは当たり前に出来てたから、全然気にしてなかったけどね」


ぱちん。

リオンは無言で爪を切ってくれている。


「ちょっと限界っぽかったみたい。届きそうで届かないし。もーつっかえちゃってさ」


ぱちん。





「―――――リオン」

「…………本当に、随分大きくなったな」


リオンは私のお腹をそっと撫でて言った。


「ふふ……そうだね」

「――不思議な感じだ」

「うん………もういるんだよ、この中に」


リオンは微かに目を伏せる。
その表情は、出会った頃のそれよりも、随分柔らかいもので。



本当に、不思議な感じ。

私、ママになるんだ。
リオンの子を、産むんだ…。



急にあの頃から今までの月日が頭を駆けて、懐かしい匂いがしたような気がした。







1+1、そして1。




(ね、どんな子が生まれて来てくれるかな?)(ふん、お前みたいな能天気で図々しくて馴れ馴れしい奴じゃないといいんだが)(じゃあきっと、素直じゃなくて甘いものが大好きな子だねっ)(……………)








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スパーダでも書けた気がする。気だけする。


リオンのツンデレ具合とかなんやかんやとか(←)書くの難しいorz




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