陰陽恋恋 2





屯所へばたばたと大慌ての様相で帰ってきた隊士達に、土方は何事かと慌てて飛び出してきてみれば、山崎の背には風間の姿があった。
とにかく部屋を、と主張するのに一室を与えて意識の無い風間を寝かせた。

「何があった?」
「てぇか、顔真っ赤だぞ?大丈夫かよ?」

真剣な表情の土方の言葉に続いて、永倉が未だ茹で蛸のような山崎を心配して声を掛ける。

「あ、いやこれはその…そ、それより副長!」
「どうした。山崎」

山崎にしては珍しく動揺をみせるのに、重大なことが起きているのかと土方の眉間が寄る。

「か、風間は…女だったのですか!?」
「……………は?」
「俺は、男だと聞いていたので…」
「何言ってんだ?山崎?」

あまりにも突飛で唐突な言葉に、その場に居た全員がぽかんと呆けてしまった。

「いえ、その…風間を背負った時に背中に……や、柔らかい感触が……その…二つ程、当たりまして……」

語尾は彼らしくもなくぼそぼそと小さくなっていき、ただでさえ赤かった顔を更に紅潮させて、山崎は下を向いてしまう。

「山崎?しっかりしろ。風間は紛れもなく男だぞ?」

なんの冗談だとばかりに軽く溜め息を吐く土方に、ぱっと顔を上げる。

「で、ですがっ!!」
「山崎…お前疲れて…」
「いや、待ってくれ土方さん。あながち冗談じゃねぇかもしれねぇ」

ふざけているのかと誤解されそうになっている山崎に、助け船を出したのは永倉だった。
実際に剣を交えた永倉も、奇妙な違和感を感じていたからだ。

「おいおい、お前ぇまで…」
「副長。今風間は部屋にいるのですから、確かめればよいのでは?」

呆れ半分の土方に、今度は斎藤が進言すれば、普段から生真面目な斎藤までもこんな狂言に荷担しているわけではあるまいと、さすがに土方は腰を上げた。





それが、ほんの先刻の事。
今、新選組屯所の広間では幹部が勢揃いで顔を連ねている。
皆一様に複雑な表情を浮かべているのは、先程起こった、風間千景女事件だ。
ばかばかしいと思いつつ、寝ている風間の側迄寄り、しかりと見てみれば、違和感は明確な物になっていくばかり。
身長も体つきも、認識していたよりは若干小柄で丸みを帯び、短かったはずの金の髪は肩の辺り迄ある。
布団から出ている肩は、どうみても男の肩幅とは思えない華奢なもの。
嫌な予感がひしひしとした土方は、それ以上の明確な確認は、隊士全員を部屋から追い出し千鶴一人に頼んだのだ。

結果

「風間さんって…女の方だったんですね…」

部屋から出てきた千鶴さえ、驚きの表情でぽつりと告げたのだ。














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