意識が 浮上する
目を開けても視界は暗いまま。

「?」

目元に手を持って行くと、濡れたタオルが置いてあった。
それを手に取り、しばらく見つめてアレは現実だったと思い知らされる。
恭介が、もういない。
この部屋に、じゃない。永遠に。
俺の隣に。
体がきれいになっている。このタオルも恭介だろう。

「恭介……」

口に出したところで、届かなければ意味がない。虚しさだけがその場を支配した。

どれほどぼーっとしていただろうか。時計を見ると7時30分を回ろうとしていた。今日は月曜日。学校が普通にある。

都合の悪いことに、俺と恭介は同じクラスだ。
一瞬、休もうかと考えが巡ったが、そこまで弱くはない、と学校に行くことにした。しかし朝食はどうも食べる気にはならず、少し早めに学校へ向かうことにした。
ゆっくり、のんびりだらだらと歩いて、いつもより早めに出たのにも関わらず始業5分前に教室へと入った。
机に座ると、視線を感じた。
……恭介だ。見なくてもわかる。でもそれを無視するように、机へと突っ伏した。

「週ばーん、挨拶ー」

担任がチャイムと同時に教室に入ってきて週番に挨拶を促す。週番の起立という声に従い、俺も椅子から立ち上がった。

「よし、それじゃあまず転校生を紹介します」

( え? )

そこでようやく担任の隣に見慣れない姿があることに気づいた。

「はじめまして。平岡壮一です。父親の転勤に家族でついてきました。よろしくお願いします」

その言葉に「よろしくお願いしまーす」と男子校のノリで返すクラスメート。
しかし俺は返さなかった。
彼の視線が恭介ばかりを捉えていたから。睨むように見ていると、ふと彼がこちらをむいた。目が合うと、微かに笑みを浮かべたのがわかった。俺、あいつ苦手かも、なんて思ったのは内緒だ。あいつの席は一番後ろの廊下側。俺とも恭介とも近くはない。

担任の連絡事項を聞きながらだらだらと1日を過ごそうと決めた。

決めたのに。

「えっと、木崎くん、ちょっといい?」

早くも1日の計画が崩れた瞬間だった。

「……名前、」

「ああ、隣の席の人に聞いたんだ」

「ああ、そう」

「うん。ね、ちょっといい?」

断りたい。正直、断りたい。でも理由が見つからない。

「……良いけど」

「ありがと」

そう言って教室の外へ行こうとする平岡。しぶしぶその後ろについていく。平岡に続き教室を出ようとしたとき。

「ケイ!」

俺をケイと呼ぶのは一人しかいない。

「なに、恭介」

「あー、今日も部屋、行っていい?」

「え、」

「いや、なら、別に、」

「ううん、いいよ、全然」

顔が綻ぶのがわかった。恭介が俺を避けないでくれたのが、すごく嬉しかった。俺は少し浮かれて、教室を出たのだった。


「ねぇ、この学校で人来ないとこってどこ?」

「は?」

「だから」

「いやいや、そうでなくて。なんで人気のないとこに行くの、ってこと」

「ああ、俺は聞かれてもいいんだよ?別に。ただ木崎くんが困るかなぁ、と」

「はあ?」

頭沸いてんじゃねぇのか、こいつ。なんで会って間もないのにんな話があるんだよ。

「まぁいいや。授業始まれば人来ないし。あ、選択教室だって。ここでいいや」

木崎くん、入って、と言われ選択教室へと入った。

「で、話って」

適当な机に直接座る。平岡は立ったままだ。

「まぁまぁ。ねぇ、木崎くん。俺も寮生活なんだ」

「は?」

だから何、と言おうとして止まった。
なんでこいつは俺が寮だって知ってんだ。ああ、隣の奴に「隣の人に名前と一緒に聞いたわけじゃないよ?」思わず舌打ちをしたくなる。なんなんだ。何が言いたい。

「何が言いたいんだよ」

「俺、木崎くんの隣の部屋になりました。よろしくね」

「…………」

「………木崎くんて、けっこう積極的なんだね」

「は?」

「まだ気づかないの」

「なに、が」

「俺、土曜日からいたの。隣の部屋に。なのにアンアンアンアンうるさくてさ」

「!」

「挨拶、行けなかったから」

日曜日も昼間っから盛ってたし、と。冷水を浴びた気分だ。俺は角部屋で隣が空室だから、と高をくくっていた。

「木崎くんとその人って付き合ってるの?」

「……………」

「付き合ってないよね」

ビクッと身体が震えた。

「可哀想にね。相手全然気づいてないじゃん。むしろ肉便器みたいなさぁ」

「やめ、」

「やめないよ?可哀想な可哀想な木崎くん」

「なにが、言いたい」

「でも木崎くんは彼が好き。大好き。アイシテルわけだ。でも俺が一言寮長や先生にうるさくて眠れません、って言ったら?これからできる友達に愚痴ったら?」

「っ、」

「困るよね?しかも男同士なわけだし」

視界が、歪む。

「ね、木崎くん。黙っててあげるからさ、俺とも気持ちいいこと、シよ?」

さっきまでの浮ついた気持ちが嘘のように海の底にいるように重く、苦しかった。

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