昼休み、俺と壮一は壮一が転校してきたときに、話をした選択教室にいた。
「ここ、授業でもそんな使われてないの?」
黒板や机を眺めながら壮一が聞いてくる。
「多分。俺は授業で使ったこと無い」
「へー」
「………………」
「………………」
「壮一…………」
「………………ケイ」
壮一は黒板に向けていた体を翻し、俺と向き合う。
「ケイ、俺ね、わかったんだ。あれだよね。真山のせいだよね。真山がケイを忘れちゃったから悲しいんでしょ?真山をケイが忘れられないから苦しいんでしょ?だから俺を見てくれないんだよね!」
近づきながら次々と言葉を発する壮一。明らかに普通ではなかった。でも俺はその場を動けなかった。圧倒された?突然だったから?怖くて?全部あてはまる。でも。
( 壮一をここまで追いつめたのは、俺だ )
「あいつのせいで!あいつはケイを忘れたっていうのに!俺はこんなに、こんなにこんなにこんなに愛してるっていうのに!あいつのせいでケイは俺を受け入れてくれない!」
壮一に両肩を掴まれる。
………我ながらお人好しだとは思う。壮一が勝手に俺を好きになったというのに。でも拒めない。俺は、壮一が『ケイ』と呼ぶ度に恭介のそれと重ねていたんだ。
「壮一…………」
「それでね、ケイ」
明らかに空気が変わった。
今度は気のせいなんかじゃない。はっきりとわかる。
この場を 狂気 が支配した。
「俺ね、どうしたらいいか考えたんだ。一晩中、ずっと、寝ないで。ずーっとどうしたらケイが俺のことを見てくれるか考えてた。その今俺を映してる瞳を、色っぽい声で喘ぐ口を、白い肌を、手を、髪を、血を、ケイのぜんぶを、どうしたら俺のものにできるか考えてたんだ」
ぞくり、とした。
冷や汗なんてものじゃない。
息が苦しい。
このまま目の前にある口に呑み込まれるんじゃないかという錯覚に陥った。
それでも壮一の話は終わらない。
「それはすぐわかったんだ。ケイも真山を忘れればいーんだ、って。問題はその方法。俺じゃ物足りないんでしょ?思い出したんだぁ。真山とケイってすっげー激しいセックスしてたって。でも俺はケイのこと大切だから、あんま乱暴できないし。だからさ。」
にっこりと 微笑む壮一。
「他の奴らに頼んでみた」
「…………は?」
「待ってね、今メールする。なんかケイったら人気なんだもん。嫉妬するわー」
携帯をいじりながらそんなことを口にする壮一。
「え、は?意味が分からない………」
「だからー、真山を忘れさせたいんだって。他の奴らにケイ触らせるのムカつくけど、いっぱい色んな人に抱かれたらさぁ、真山のことなんか消えちゃうでしょ?」
「……………………」
震えて声が出ない。
足が動かない。膝が。
「あ、来たっぽい」
ガラッと扉が開き、数名の生徒が俺らのいる教室へと入ってきた。
「ほんとに木崎クンいるじゃん」
「え、まじ?」
「うわ!まじだ!」
「平岡、まじでいーの?」
「うん、いいよ」
………おかしい。
みんなおかしいよ。
狂ってる。歪んでる。
「おいでー、木崎クン」
一人の男が俺の腕を掴む。
「ゃ、」
「やべーちょーかわいー」
「震えてるし」
「大丈夫だよー?優しくするし」
「っ、いった」
喋りながら俺を床へと押し倒す。
「ケイ、真山なんか忘れちゃってよ」
「………………」
今にも泣きそうな壮一のムリヤリ作った笑顔が痛々しくて、一気に体の力が抜けた。これでいいのかもしれない。
もともと恭介ともセフレだったわけで。今更経験人数が増えたところで何かが変わるわけじゃない。むしろ恭介の感覚が消えて良いかもしれない。壮一を利用した償いもできる。誰かわかんないけど相手も満足する。
ああ、俺がちょっとガマンすればすべて丸くおさまるのか。
元々貞操観念は低い方だし、睡眠不足と精神疲労で、思考がどんどんおかしくなる。でもおかしいと気づくわけもなく。考えることすら、めんどくさくなった。
「あっ、っ、だめ…ン」
「色っぽ〜」
「つかちょっと触っただけでこんなドロドロって。淫乱?」
「へ〜。かわいー顔してヤることヤってんだね」
「ばーか。かわいくなきゃできねぇだろ」
男たちの下への責めが激しくなる。
「アッ、ンっ、うあっ、ああっ」
俺は、名前も知らない男たちの手に、白濁を吐き出した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「木崎クン気持ち良かった?」
「んじゃ次は俺らを気持ち良くさせてくれよな」
ガチャガチャとベルトを外す音が聞こえる。
( ………………… )
壮一 ごめん
俺、壮一に応えられない
だからせめて
少しでも気が和らぐように。
「んじゃ、気持ちよくなろっか」
恭介
恭介 恭介 恭介
ごめん、俺、忘れらんない
恭介が忘れても、俺は、恭介が、
「ンっ、あっ、そこっ、やぁ」
恭介
ごめん
好きになって ごめん