『おいおい、本当いつまで寝てんだよあんた』その呆れた様な声は聞き慣れたはずのものだが、どうしてだか、誰のものか分からない。
寝ているって、私が?おかしいな、さっきまで起きていたはずなんだけど…あれ、さっきって――いつ?
薄っすらと見えるのは闇色の一色。
瞬きを繰り返しても漸く目が慣れても薄暗くて自分がどこにいるのか分からない程。
そして自分が仰向けに倒れていのだと認識するに少々時間が掛かった。
「…あ…れ…?ここ、どこだ」
いてて、背中が痛い。どうやら石の台みたいなところで寝ていたみたいだ。
暗いし、埃っぽいし、静かで音がない。本当にここはどこだ。
「皆ぁー!遊戯君!城之内君!杏子ちゃん!漠良君!本田君!」
いつまで経っても返事は無い。近くにいない…?ここには私一人だけ?
確か私は皆と童実野美術館へ来て…ダーク・ナイトのカード達を石版にかざしたら石版が眩しく光って、それから…それから?
駄目だ。どういう経緯でここにいるのか全然分からない。どっと心細くなってきた。
「誰かいませんかあああっ!!」
大体、ここ普通の遊園地のお化け屋敷より味が出てて怖いな!
無音と一人と言う恐怖に耐えきれず、私は思いっきり叫んだ。
「うるせぇな」
突然背後から湧いて出た声と背中に激しい痛みが。
背後から、何者かの蹴りを受け、私は「わん!?」と犬みたいな間抜けな声を上げて、派手に倒れた。
「ば、漠良…バクラ君!?生きてたの!?」
背中を押さえながら顔だけ上げると、顰めっ面のバクラ君が私を見下ろしていた。
「俺様は死なねぇって前にも言ってんだろうか。何度も何度も勝手に殺すんじゃねぇ!」
つい最近も会ってんだろうが!普通にその事忘れんな!
「何かよく分かんないけど、会いたかった!」
凄く心細かったんだ!
私はもう人に出会えたと言うのが奇跡の様な、そんな感動を味わいながら、バクラ君の胸に飛び込んでいた。
「く、くっつくな!鬱陶しい!」
必死の形相で私を引き剥がそうとするバクラ君。え、そんなに嫌なの!
でもごめんね、少しだけでいいからこうしてもらえないかな、すぐ落ち着くからさ!
「でさ、ここどこ?」
やっと、気持ちに余裕が出てきた。
ぐったり気味のバクラ君の体を放して、尋ねた。
「…王墓だ」
今の俺様じゃあ振り解けなかった。こいつ、何でこんなに力強いんだ…!
げんなりした様子で彼はそう答えると、「お、お墓って事……?」私はまたパニックに陥りそうになる。
再びバクラ君にしがみ付きそうになったが、その前に彼は付け足す様に言った。
「もう一人の遊戯のな」
もう一人の、遊戯君の…。彼の言葉をオウム返しに呟く。
不意に頭に過ぎるのは目覚める前、遊戯君達とまだ一緒にいた時、現れたボバサの言葉。
もう一人の遊戯君と私は記憶の世界に旅立ち、再び自らの運命に出会う。
それがどんな過酷なものでも、目を背ける事は出来ない…と。
「私、ここで目が覚める前に…夢を見ていた様な気がするんだ」
目が覚めた時には何にも覚えていなかったのに、不思議と今なら少しだけ思い出せるんだ。
背中の蹴られた痛みも石の上で眠っていた時の冷たさも、消え代わりに胸がずきずきと痛み出してきた。
「――どんな」
特に興味の無さそうな声でバクラ君は静かに聞き返してきてくれた。
「よくはさ、覚えていないんだけど…死んじゃう夢」
たった少しだけ思い出しただけなのにその時の光景が怖く思えて、息が震えてきた。
胸を押さえながら、震える息を落ち着かせる様に一呼吸置いて、続けた。
「それでさ、その夢には…もう一人の遊戯君に、そっくりな人が出てきたんだ。あ、バクラ君に似た人もいたよ」
「私が死んじゃって……泣きそうな顔してたんだ」
「どっちが」
「二人とも」
君が盗賊王のバクラでファラオがもう一人の遊戯君だったんだね。
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