Black valkria




『酷いマザーですね』


ビデオの中でペガサスさんはふむふむと頷く。
…これ、本当にビデオ!?


「……ペガサス!さっさと用件を言いなさい」


お姉さんはテレビの画面に映るペガサスさんを睨みながら言った。


『そうでした!すっかり、本題を忘れていました。実はユーに私のI²社が主催するイベントに参加してもらいたいのデス!』


「断るわ!」


私が返事をする前にお姉さんが先に答えた。


『私は紫乃ガールに言っているのデース』


Ms.千年は黙っていて下サーイ。ペガサスさんは冷ややかな視線でお姉さんを一瞥した。
ビデオ相手だが、その視線には有無言わせないを威圧でお姉さんはぐっと押し黙った。





『さて、お話の途中でしたね。そのイベントはDMの真のデュエリスト・キングを決めるものなのデス!』


「デュエリスト・キング…?」


『勿論。キングの称号を得た者には莫大な賞金が送られマース!もしユーが優勝したら、私の婚約者にしてあげマース


「すいません。全力でお断りします」


何であんたが上目線なんだ。それにこっちにも選ぶ権利がある!!
やっぱり、このビデオもペガサスさんもおかしいみたいだ。もう、何から突っ込んでいいのか分かんないよ。





『Oh!?フラれてしまいましたー!……なーんてネ!ユーは断る事は出来まセーン』


オーバーなリアクションで泣き真似をする外人。このビデオ鬱陶しいな!
しかし、すぐに顔を上げてHAHAHAと笑うペガサスに殺意が芽生えたのは言うまでも無い。


「ひ、引っ掛け!てか拒否権なし!」


こ、この外人うぜぇ……。


「くどいわよ。ペガサス!紫乃はハッキリと断ったわ」





『フフ。ユーは絶対に断りません……何故なら』


そう言い掛けペガサスは妖しい笑いを浮かべた。
「何故なら、何だと言うのっ!」と大きな声で聞き返すお姉さんにペガサスは更に大きな声で聞き返す。


『こうなるからデース!』


テレビ画面が白い光を放った。


「きゃあ!」


「眩しい!!」


突然の眩しい光に両手で目を覆った。何なんだよ。このビデオ!ビックリ要素多過ぎだっ!





「うっ…今の一体………!!お姉さん……?」


光が治まり、恐る恐る目をゆっくり開けると床に倒れているお姉さんの姿が目に入った。
体を軽く揺すっても、お姉さんは虚ろな目をしたまま動かない。


『では、王国でお会いましょう!私を倒せばMs.千年はユーの元に戻る。ハズ…デース』


そうペガサスが言い残してビデオが終了した。
シン、と静まり返った部屋中にノイズ音がやけに大きく響いた。





「なんだよ、最後の自信無さ気ななのは、おい!?……お姉さん?」


未だに床に倒れている千年お姉さん。声を掛けても反応が無く、肩をそっと揺らしても何も反応が無い。
慌てて、顔を覗き込んでみると、開いている目は虚ろで呼吸はしてないみたいに深い。
そっとお姉さんのぐったりした体を抱き上げて戸惑いがちに頬を突っついて見たけど、テレビドラマとかで見た仮死状態の人そっくりだ。


「おね、えさん…っ?そんな…!」


え、え、これって、ペガサスの所為…?私が断れないって、お姉さんがこんな……こんな、嫌だよ!お姉さん死んじゃやだよ!


「おば、おばさぁぁぁぁぁぁ≪おばさん言うなぁ!≫


お姉さんのどすの効いた声がした。





「! お姉さん!?起きたの!」


ぱっと千年お姉さんを見るけれど、相変わらず無反応で、あんなドスの効いた声は出せそうにもない。それなら今の声は一体どこから聞こえたのか。あれれ、幻聴か。そうであってほしいと言う私の願望か。


≪違う、私はここよ!テレビ台の上!≫


いや、幻聴ではない。本当に聞こえる!
よく分からないけど、声に従ってテレビ台の上に視線を飛ばすと、飾ってあるくまのぬいぐるがじたばたと動いていた………!
それを数秒凝視してから、私はたっぷり空気を吸い込んで叫んだ。





「ぎ、ぎゃああああああああ!?」


ポルターガイスト!憑依!?悪魔!?
あまりの驚きに叫びにならないものまで入っている。


≪私よ、紫乃!ぬいぐるみの中に閉じ込められたのよーっ!≫


だけど、ぬいぐるみからは間違いなくお姉さんの声がする。


「え。おばさん…本当に?」


≪そうよ。てか、堂々とおばさん言うな!≫


ぬいぐるみに近づきながら恐る恐る尋ねた。
この声、この性格!間違い千年おばさんだ!





「よ…良かったーっ!!」


どっと安心感が広がってぬいぐるみを力一杯抱きしめた。


≪ふぐ!!中身が、綿が…出る!≫


「あ。ごめんなさい」





≪あああぁぁあ!!≫


突然叫び声を上げて私の腕の中でじたばたと暴れ出すお姉さん。


「何!?どうしたの!?」


≪会社!会社よ!!私これから、会社にいかなきゃいけないのに!
こんな姿じゃあ、仕事が出来ないじゃない!…おのれ、ペガサス!≫


「! そうだよね…おば…お姉さんの本体は動かないしっ」


≪とりあえず、救急車呼びなさい!魂がこんなところにあるのに本体が死んじゃったら意味ないわ!≫


「あぁ、そうだよね!救急車!」


会社にも連絡入れなきゃ…チッ!
今忙しいってのに…本体に戻ったら、ペガサスの奴をメッタメッタなるまでぶん殴ってやるわ。
怖い事が聞こえたが、とりあえず聞こえないフリをしておく事にした。





END


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