Black valkria




「お帰りなさい」


家に帰ると両手に洗濯物を抱えたお姉さんが出迎えてくれた。思ったよりもずっと早く帰ってきたみたい。


「あれ?もう帰ってたんですか」


「えぇ。でも今日は夕食が済んだらまた、すぐ会社に戻らなくちゃいけないのよ」


仕事が溜まっているから…今日も着替え持って会社に泊まるわ。
凝っているであろう肩を回しながらそう言う。何でも、お姉さんの上司が入院中で会社が凄い大変らしい。


「最近ずっと、会社に泊まり込んで大変そうですね……すぐに夕食にしますから」


私を気遣って、夕食だけは一緒に食べる様にしてくれているお姉さんの優しさが嬉しい。
ソファに学ランを脱ぎ捨てる様に置いて、ワイシャツの上から、エプロンを着た。


「ありがとう……あぁ!そう言えば紫乃宛てに小包が届いてたわ」


「え――もしかして母さん達から」


思い出した様にお姉さんは手をポンと叩く。まさか、裁判の結果が出たとか。どっきりと心臓が跳ねた。





「も。あるわ」


「も?」


思いがけないお姉さんの言葉に聞き返した。


「一つは兄さん達から。もう一つは差出人不明の小包みで気味が悪いから…捨て様と思ったんだけど、一応心当たりを聞いてからにし様と思って」


「ううん。全然心当たりは無いよ」


一体、誰からだろう。小包を送ってくる様な人はいけどな…。
と言うか、向こうの友達は私がここにお世話になっている事すら知らないはずなんだけど。


「じゃあ、捨てましょうか」


「でも、気になるから開けてみます」





「これって、ビデオテープ?それに変なグローブに星?何これ」


差出人不明の小包を開けてみると中にはよく分からない物ばかりが入っていた。
通販はやっていない。雑誌の懸賞応募をした覚えもない。前の学校の友達にも今の住所を教えてはいない。


「再生するの?いかがわしいビデオなら、すぐに処分よ」


ビデオをビデオデッキに入れようとするとお姉さんは眉間に皺を寄せて言う。


「はいはい…再生っと」


そんな悪戯今時ないよ。お姉さんは変なところを気にするんだから。
笑いながら、再生ボタンを押した。少しの間ノイズが流れて、ある人物が映った。





『Hello。Nice to meet you!紫乃ガール!!』


テレビの画面に映されたのは銀髪で顔の左半分は殆ど長い髪で隠れている外人。こ、この怪しい外人は……!!


「「ペガサス・J・クロフォード!?」」


私とお姉さんの声が重なる。だけど、私の素っ頓狂な声とは違ってお姉さんの声は忌々し気で画面に映るペガサスさんを鋭く睨んだ。





『Hoー!そんなに怖い顔しないでください〜Ms.千年』


ペガサス・J・クロフォード。
彼は今、世界中で大流行っているDMの生みの親の天才ゲームデザイナーだ。
険しい表情のお姉さんにペガサスさんが肩を竦めて、言った。





「あなたが……一体、紫乃に何の用があるというの…」


「お姉さん…?」


二人は知り合いなの?


『そう警戒なさらずに!これは親愛なる紫乃ガールへのただのビデオ・ラブレターなのデース!


「…え。ラブって……ラブ…は、はぁっ!?」


混乱する私にお構いなペガサスさんは話を進めていく。





『ユーは前回の大会では大変素晴らしいデュエルを私に見せてくれました。今回の大会にも出場してまた素晴らしい結果を出してくれると思っていたのですが〜』


『……どうやら、今回は大会に出場されてない様ですね』





「紫乃!あなたDM大会に出てたの!」


「え、う、うん。でも、準々決勝までだよ…それに単に運が良かっただけだし」


問い質す様にお姉さんは私の肩を強く掴んだ。その剣幕な様子に戸惑いながらも答えた。





『謙遜だなんてしおらしい!私ますますユーの事が好きになりました。勿論、LOVEの意味デスよ〜前回の大会はユーが棄権なんてしていなければ、ユーが優勝していたはずデース』


「す、好き……!?何言ってんのこの人!?」


「棄権…?」


前者の言葉に反応する私に後者の言葉に反応するお姉さん。あんまり、この事は言いたくなかった。
けれど、剣幕な様子のお姉さんを見たら、言わないと色んな意味で怖いので、私はおずおずと口を開いた。





「母さんが――カードゲームなんて駄目だって…棄権させられたんだよ」


"ゲームよりもっと大事な事があるでしょう"
そう言われて、母さんにカードを渡す様に言われた。


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