「じゃあ、ダイスを振るよ」
ダイスは漠良君の手から、滑り落ちて机にカラカラと、小さな音を響かせた。やがて、ダイスは0の面で停止した。
「あれ、0の面が出たよ。これで君の勝ち目は無くなったね。フフフ」
「……ア、アハハハ。でも、一応ダイス振っとくよ」
目の前の相手は本当に愉快そうに笑った。いきなり、パシリ決定ですか!獏良君、そんなに私が嫌い!?
私が一体、君に何をした。転校したばっかりでもう、やられ役か…ついてないや。
「フフ、どうぞ」
目を細めて獏良君は10面ダイスを私に寄越した。
「うん…――
喰らえぇ!!」
成る様になってしまえ!!こうなればやけくそだ!
とダイスを思いっきり投げた。ガッキィン!と大げさな音がした。
「! 俺様のダイスが8だと!?」
「あ、私のダイスは0だ!やったー!」
よかった。これでパシリにならなくて済む。ホッと、無い胸を撫で下ろした。
「反則だ!!ダイスをぶつけていいなんて言ってない!」
バン!と机を叩き大きな音を立て漠良君は立ち上がり、私を睨んだ。
柔らかそうだった髪も優しい瞳も怒りで逆立ち、吊り上げていた。うわ、漫画みたいだね。
「え、私はダイスをぶつけるつもりなんてなかったよ?偶然当たっちゃったんだよ」
本当に偶然なんだよ。
鼻を噛み付かれそうな勢いで顔を寄せられ、ぐぐっと漠良君の肩を押して、距離を取った。
「嘘付け!喰らえとか、思いっきり叫んでたじゃねぇか!!」
お前の後ろに俺様、サタンを見たぞ。
「だって、本当に偶然だし」
「確か、ルールにはダイス同士をぶつけては駄目だとか、含まれてなかったよね」
獏良君より、小さい目を出したら、私の勝ちとしか、言ってない。これは説明不足で引き分けだね?
「――チッ、そう言う事にしといてやるぜ。だが、次は必ずお前に勝つ!」
絶対、貴様に吠え面かかせてやる!!
「うん、そう?」
引き分けがそんなに悔しいのかな。悔しそうに睨んでくる漠良君。
だけど、小動物が敵を威嚇している様にしか見えないよ。
そう言ったら、また噛み付かれそうになった!
「どうだった?紫乃」
「うん。上々かも?」
部屋に戻るとお姉さんが早速どうだったかと、尋ねてきた。ゲームして、遊んでくれたし。
彼の二面性を垣間見た。学校で獏良君が言っていたのはきっと、少し偶然が重なっただけの事だ。
「そう。やっぱり、餌付けが効いたのね」
「うーん…そうなのかなぁ」
本当にシュークリームあげたから、なのかな?
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