Black valkria




子供の頃、男の子ならヒーローに憧れる時期って誰にでもあるよね。
勿論、僕だってその一人だ。ピンチの時に必ず、現れるヒーロー。
強くて、カッコ良くて、誰にでも優しいヒーロー。
あの頃、僕には友達が全然いなかったから、余計に憧れていたのかもしれない。


昔から僕は結構危ない目に遭ってたんだけど、子供ながらに死んじゃうかもしれないって危機が一回あった。
でも、そんな時に救いのヒーローが現れたんだ。










今から、五、六年前。
その頃は城之内君達とも出会うずっとずっと前。僕がまだ苛められっ子で友達がいない時。
いつも家で一人ゲームをして遊んでいたんだけど…その日に限って公園の砂場で遊んでいた。
ママがいつも一人で遊んでいる僕を見かねて、たまには外で遊んで来なさいって僕を放り出したんだ。


公園へ行っても、鬼ごっこや駆けっこをしている子達の中に入れてもらう事も出来ず、暫くは突っ立っていた。
公園で遊んでいた子達は僕に見向きもせずに自分達の遊びに専念していた。
仕方なく、僕は一人砂場でお城を作る事にした。もうすぐお城も完成という――その時、一匹の犬と遭遇したんだ。





いかにもどうもうそうなドーベルマン。首輪をしていたけど、飼い主は見当たらない。多分、逃げ出してきたんだと思う。
最初は興味本意で眺めていたら…バッチリとそのドーベルマンと目が合っちゃって、既に周りにいた子達はドーベルマンの迫力に泣き出していた。
そのドーベルマンが!なんでか!僕をターゲットに絞り込んで、僕に向かって駆け出してきたんだ!!





完成間際のお城なんて放って、僕もすぐに駆け出した。
走っても走ってもすぐ後ろには凶悪な顔をしたドーベルマンが迫っていた。
あんな尖った牙で噛まれたら、死んじゃうよ!!僕は怖くて、恐怖に足が縺れ、転んだ。


後ろに振り返ったら、ドーベルマンは僕に飛び付きそうだった。もう駄目。
僕はこの犬に噛み殺されちゃうんだ!て思って硬く目を瞑った。
だけど、聞こえたのはドーベルマンが僕の骨を噛み砕く音じゃなく、甲高い悲鳴と鈍い大きな音だった。





おっかなびっくりしながら目を開けると、僕を襲おうとしたドーベルマンが倒れていた。
その隣には結構大きい看板があった。『あなたの安全、守りマス!』保険の看板だった。





「大丈夫?」





同じ歳くらいの子が僕の顔を覗き込んできた。恥ずかしい事に僕は名前も知らないその子に泣き付いてしまった。
死ぬかもしれないって本気で思って、声を上げて、ボロボロと涙を流して…今思い出すと本当に情けないよ。
その子もいきなり抱き付かれてびっくりしたみたいだけど、僕を突き飛ばさないで優しく大丈夫だよって言ってくれた。





「ねぇ、君名前なんて言うの」


少し落ち着いたら、抱き付かれて恥ずかしかったのか、少し赤い顔してその子は言った。
しゃっくり交じりで喋り辛かったけど、何とか名前を言う事が出来た。
僕もその子の名前が知りたくて聞きたかったけど、上手く言えなかった。
君は?と視線で問い掛けると、





「紫乃だよ。お家どこ?送って行くよ。遊戯君」


照れた様に笑って僕の手を取って歩き出す、ヒーロー。
その日から、ずっと君は僕のヒーローだ。……ヒーローと言ったけど本当はヒロインだったりして、アハハ。





笑った顔が、子供ながら可愛いと感じたんだ。





ヒーローに恋をした
(憧れは恋に変わった)(君は全然、気付いてないけどね)


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