Black valkria




「あ、あのさ」


「んだよ」


非常に遠慮がちな声で呼び掛けると非常に面倒くさそうな声が返ってきた。
しかし、私は声を掛けるのをやめない。


「バクラくーん」


「だから、なんだよ」


「重いから、退いて…くれないかな」


「ヤだ。めんどくせー」


現在進行中で、私は彼に寄り掛かられている。いや、寄り掛かられるくらい別にいいよ。
だけど、何か…凄く悪意を感じる寄り掛かり方と言うか…全体重を掛けて私の体に寄り掛かって来るんだよ。


「ヤだって…!私そろそろソファから、ずり落ちそうなんだけどさ」


もう、お尻が半分宙に浮きそうなんだよ。見て私の状況を!!すっごい不安定なこの体制を!!
ばっさりと切り捨てられたからと言って怯まなかった。ニヤニヤとしているバクラ君に強く訴え続ける。





今日は千年お姉さんが会社に泊まり込むので、一人身同士、お隣の漠良君と晩御飯を一緒に食べる事にした。
食事を終えると、漠良君は思い出した様に「そうそう、面白そうなDVDを沢山借りてきたんだ。一緒に観ようよ」と、誘われたのはホラーDVD観賞。
な、何だよ!全部R-18じゃないかこれって、グロ過ぎるやつだろぉ!!多分、怖くて今日眠れなくなる、絶対。うん、私無理です。
逃げ様とした途端、漠良君の首に下がる千年リングが光を放ち、彼のもう一つの人格のバクラ君が現れてしまった。
なんとも楽しそうに「ヒャハハ!逃げんなよ、鏡野!」高笑いを上げて、私は首根っこ掴まれてしまったのだ。





「ギャアアア、うわあああ、ひいぃ、うがはッ「うっせぇんだよ。お前は黙って観てらんねぇのかよ!」


奇妙な悲鳴を上げながら、私は画面から視線を逸らさずにいた。
すると、不意に横からアッパー喰らわされて、私は痛みに激しく噎せ返った。


「ゲホゲホ!…っだってさぁ、なんか言ってないと怖いし…!」


いきなり、酷いじゃないか。恨みがましくバクラ君を見た。
目を逸らした瞬間に、声を止めた瞬間に何かあったら怖いじゃんか…!不気味な効果音が大音量とか。


「だったら、もっとこっち来いよ」


「へ?」


「怖いんだろ」


これ以上騒がれても迷惑だ。
思いがけないバクラ君からの言葉に思わず間抜けな声を上げた。
バクラ君は画面に目を向けたまま、私を見ずに言っていた。


「え、うん…!あの、じゃ失礼しますっ」


どうせだったら、DVD鑑賞やめて欲しいんだけどなぁと思いつつも不意に画面から、目を離した隙に血が吹き出る音が生々しく響いた。
シン、と静まり返る深夜の部屋には不気味過ぎる。肩を大きくビクつかせて、反射的に手招きする彼の隣に飛ぶ様に座った。





「お、終わった…!なんとか、終わった…!」


駄目だ。腰…抜けた。今日、眠れないよ…。
でかい体をビクビクとみっともなく、震わせながら、なんとかDVDを最後まで見る事が出来た。
全てのDVDを観終わると今度はバクラ君に「お前が煩くて全然、観れなかった」と腹いせとばかりに寄り掛かられて、とうとう私はソファから、ずり落ちて床に崩れ落ちた。





「お前、面白いくらい今、青い顔してるぜ」


「本当に血の気が失せたよ」


「ヒャハハ!怖くて眠れねぇって泣いて言うんなら、俺様が添い寝してやってもいいぜ」


「………」


「おい、何黙ってんだよ」


急に黙り出す私にバクラ君は怪訝に聞き返してきた。


「いや、本当に泣いてお願いしようかどうか迷って…」


「冗談に決まってんだろうが」


自分で言い出した事なのに、私の返事を聞くと露骨に嫌な顔をして軽く引く、バクラ君。
私だって冗談だと分かっていたさ。だけど、本当に今日は怖くて眠れそうにない。
藁にもすがる思いで、じりじり後退りするバクラ君を見つめ返した。





深夜二時
(本当、何にもしないから、今日一緒に寝てぇええ!)(ばっ、馬鹿!引っ付くんじゃねぇよ!!)


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