Black valkria




「このダーク・ナイト・シリーズはある種類の人間には大変価値あるもの。輸送中何が起こるか分からない為、ペガサス様は私を鏡野様の元へ使わしたのです」


「それではバトル・シティ、ご健闘をお祈りしております」


一礼するクロケッツさんに「ペガサスにお大事にと」最後に言葉を掛けた。
ウザイ外人だけど、ペガサスは改心した。もう、自分の夢の為に他人を犠牲にしたりしない。


そんなペガサスから、容赦無く千年眼を奪い取った者…――。
マリクか、それとも、マリクと同じ様に王を、もう一人の遊戯君を恨む新たな敵の出現と言う事なのか。


私も……その王の敵と言う事になってしまうんだろうか。











俯き、強く拳を握る紫乃の陰の落ちた表情は私の好きな彼女に良く似ていた。でも、所詮はただ似ているだけで、それは彼女では無い。
私を楽しませてくれるけれど、決して、私の、私達の消えない傷を癒してはくれない。やはり、これを癒す事が出来るのは彼女ただ一人だけ。
そして――不意に手元の鏡は紫乃の闇色に輝く瞳を一瞬捉え、罅割れてしまった。もう、鏡には何も映らない。私の歪んだ弧を描く、口元でさえ。





「フフフ…やぁっと、駒が紫乃の手に揃ったわぁん」


あぁ、待ち遠しいわぁ。早く、早く、舞台の上で彼女と再会したい。ねぇ、あなたもそうなのでしょう。
割れた鏡をコートの内ポケットにしまいながら、鋭い目をした男に振り向く。


「アメティスタ、話が違う。これ以上鏡野には近付くな…あいつは俺が目醒めさせる」


「あらあら、私だけ除け者して、本当にズルイ人ねぇ…バクラ」


あなたのやり方じゃあ、いつまで経っても、彼女は目醒めない。
私達の計画には最終的に彼女が必要不可欠。彼女無しでは意味がまぁるで無い。
辺りに深い霧が立ち込み始め、湿った空気が頬を撫でる。





「お前のやり方じゃ駄目だ。強引過ぎる」


あの能天気にゃ衝撃が大き過ぎて、耐え切れねぇよ。


「強引、ですって?うふふ!あなたから、そんな言葉を聞かされるなんてねぇ、彼女の魂を見つけて以来の驚きだわぁん」


足元に転がっているデュエリストの少年達はあなたが抜け殻の様にしたんじゃない。
可哀相にここは人気の無い墓地だから、暫くはこのままだわぁん。目的の為に度の過ぎる事だってしてきたじゃない。





「私のやり方が強引だと言うのなら、あなたは一体、どうだって言うのかしらぁ」


本当に、おっかしい。
足元に転がる少年を跨いで、バクラの首に下がる千年リングの紐を引っ掴んでやる。
表情一つ変えずに私に険相な目を向ける彼を鼻先で嘲笑う。





「本来あなたが紫乃に闇を植え付ける役だったのに、あなたは何もしなかった」


同じマンションの隣の部屋に住んでいながら、同じ高校に通っていながら、紫乃と友達なった宿主を持っていながら。
あなたがそれらしいアクションを起こしたのはモンスター・ワールドのみ。しかも、結果は散々なもの。





「宿主の影から、紫乃に彼女の僅かな面影を見て、それだけで、満足でもしていたんじゃ「黙れ」


「まぁ、怖いお顔」


千年リングの紐から、パッと手を離し、身を翻す。


「でも、あなたが何もしなかったのは事実。だからぁ、私がやってあげたのよぉ。植え付けた闇の種子はもう、蕾となり、後もう一息で花咲かせる。私に感謝して欲しいくらいだわぁん」





「それに私、もう決めちゃったぁん」


「何を」


「私も、"彼"と一緒にバトル・シティ決勝戦に行く事にしたのぉ」


「そいつは、」


墓石の影から、そっと姿を現す愛しい私のお人形。手を差し出せば、優雅に跪き、手にキスを落とす。
見た目も仕草もいいけれど、それだけじゃないのよぉん。


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