Black valkria




バトル・シティ決勝戦の行われる場所、それは現在建設途中の童実野スタジアムであった。
日は暮れて、辺りには街灯が無い為、真っ暗だ。そんな暗闇の中、目の前に聳えるスタジアムは不気味だ。
もう立派な心霊スポットの様な雰囲気をかもし出している。本当に怖い。


早足になって、お化けの口の様なゲートを潜って、人を探す。自分の足音でさえ恐怖心を煽る。
本当にこの場所で合っているのか、不安が爆発しそうになった時、突然目の前に人の気配が現れた。


「ぶわぷッ」


「……すまない」


とびっきり間抜けな声を上げ、何かに鼻を強く打ち付けた。壁や機材にしては柔らかい、そう人間だ。
低い声が返って来たので、打ち付けた鼻を押さえ、相手に向き直った。


「ひえ、こちらこしょ、すいま、…せん」


目深に被るフードから、除く鋭い眼光と、頬に刻まれた大きなタトゥー。
コートの上からでも分かるがっしりとした体格。一目で只者ではないと、悟った。
だけど、それだけだった。何より、自分以外の人間がいる事に不安は薄れた。





スタジアムの中央に近付くにつれ、ささやかなライトが見えた。
そこに遊戯君達の姿を見つけ、さっきまで怯えていたのが、嘘だったみたいに顔の筋肉が一気に緩む。


「遊戯君!皆ぁ!」


「紫乃ちゃん!」


「おう、紫乃!」


遊戯君、城之内君!決勝に進出するんだね。
それに舞さんも、海馬君も、漠良、君…?え、何で君もデュエルディスクを?
皆の元に駆け寄ると、一人異様な雰囲気をかもし出す漠良君に目が釘付けになってしまった。


「ば、漠良君…君、一体どうしたの」


「えへへ、僕のオカルトデッキがかなり、強くてさ。遊戯君達と闘ってみたいと思ってね!デュエリストとして」


皆に内緒でバトル・シティに参加したんだ。
二の腕に血の滲む包帯を巻き、周りにお花を撒き散らし、漠良君は凄いでしょうと、笑う。
怪我をしているのに漠良君はちっとも、痛そうじゃない。どんどん血が滲んで、包帯はもう白い部分を残していないのに。





「全然、痛く無いんだ。触ってみる?」


「やめてー!もっと、自分を大事にして漠良君!」


漠良君は怪我をした場所を指でブニブニ押して、血がブシュブシュと危ない音を立てて、吹き流れる。その音はヤバイって!!
私は血の滴る包帯を見ない様に剥いで、おろしたてのハンカチで傷口にきつく巻いた。


「わぁ、ありがとう、紫乃さん」


「…いや、気休めだよ」


今一瞬、漠良君から、変な感じが……気の所為、かな。


「おおっと、躓いた!」


「ひぎゃああ!?……ゆ、遊戯君…っ?大丈夫、かい」


どん!と背中に衝撃が走り、躓いて私の背中にしがみ付く遊戯君ごとお腹から、地面に倒れた。
胃の中身が!元々、それ程内容が入っていない胃の中身が全部飛び出しそうだ。
片手で口元を抑えながら、振り向くと、遊戯君が「暗くて、小石に躓いちゃったんだ。ごめんね」と、天使の様な笑顔を浮かべる。
だ、大丈夫だよ。それより、これから、気をつけてね!…千年パズルの角がかなり、痛かった。





「あれ?遊戯君から、海の匂いが」


「あぁ、うん。ちょっと、海に落ちて」


起き上がると、しょっぱいにおいが鼻を掠めた。


「どうしてまた、海なんかに、」


言い掛けて、脳裏にマリクの事が思い浮かぶ。
遊戯君が大会の途中で訳も無く季節外れの海水浴なんてするはずがない。
何かがあったんだ。マリクが遊戯君、いや、遊戯君達に何かしたのか。漠良君の怪我も、マリクが関係して?


「…紫乃ちゃん?」


遊戯君は急に無言になった私を見上げ声を掛けた。その声にはっと正気に戻り、恐々と口を開いた。


「マリクが何か、してきたの…?」


尋ねると、瞬時に隣にいた城之内君の顔が曇る。遊戯君も少し目を伏せた。
けれど、すぐに「僕と城之内君はマリクと闘った。そして勝ったんだ」と、しっかりした表情で言い切った。


「それより、お前の方もなんかあったのか?マリクの事知ってるみたいだし…」


「あぁ、うん。私もレア・ハンターに再会して、そいつ越しに――マリクが接触してきたんだ」


千年アイテムの力で。


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