Black valkria




人の流れがどっと増えた夕方。
デュエリスト狩りや、不良にかもられそうになる等散々な目に遭いながらも、パズルカードを6枚集める事が出来た。
心身共にとっても、傷付いたのでさっさと決勝の場所を確認して、遊戯君達と合流する事にした。


すると、前方から、一台の高級車が真っ直ぐ私へと、近付いてきた。嫌な予感しかしない。
ピカピカに磨かれて、黒光りする車から、降りてきたのは黒スーツにサングラスの外人で、明らかに一般人ではない。


「お久しぶりです。鏡野様」


「へ、えっと…あの」


え、どなたですか。と言いそうになった口を慌てて塞ぐ。
私の名前を知っているし、口振りから察するに知り合いらしいのだが、どうにも思い出せない。
身構えたままの私に綺麗にお辞儀して、スーツの男は、


「ペガサス様の部下の「あ、あぁ!クロワッサンさんですか!」


「いいえ、クロケッツです」


クロワッサンって、パンじゃねぇかよ。
そんなボケに動じる事も無く、クロケッツさんはただ、クールに訂正するだけだった。


そうだ。ペガサスの一番の部下のクロケッツさんだった。王国以来で、すっかり忘れてしまっていた。
ペガサスには王国で大変な目に遭わされたけど、改心してもう、悪い事はしていない、はずだ…。
たまにウザイビデオ・レターを寄越してきて、何だかんだやっている内にお姉さんの目を盗んで、文通の真似事をする仲になっていた。





「それで、どうして、クロケッツさんが童実野町に」


まさか、ペガサスのアホさ加減に愛想をつかして、家出を…いやいや!いい歳したおじ様が家出なんてするはずない。
それにクロケッツさんとペガサスは長い付き合いらしいから、ペガサスが救い様の無いアホだと言う事は知っているはずだ。


「ペガサス様から、鏡野様へ例の物を預かって参りました」


そう言えば最後にペガサスが寄越してきたビデオ・レターに例のカードのアイディアが思い浮かんだから、これから制作に入ると言っていた。
暫く連絡は取れないから、「寂しがらないで下サーイ」とか言いやがって、「誰が寂しがるか!残った目ん玉もくり抜いて、海に捨てんぞ!」
そんなどうしようもない遣り取りを交わし、以後、本当にペガサスからの連絡が本当に途絶えていた。





――ダーク・ナイト・シリーズ。
クロケッツさんが預かったと言う代物にはそれしか、心当たりは無い。
ごく最近にグールズのレア・ハンターがしつこく奪おうとした色々といわくの付くカード。
クロケッツさんは立派なジェラルミンケースを両手で持ち、私にその中身を見せた。中身は黒いデッキケース一つだけだった。





「鏡野様。ペガサス様からの伝言です。"指輪を持つレディにお気をつけなさい"」


「指輪を持つ、レディ…?」


指輪を持つ女?既婚者?んん…謎だ。
クロケッツさんから、手渡された黒いデッキケースは重厚感があり、鍵まで付いている。
デッキケースを受け取ると、クロケッツさんは少し躊躇ったかの様に間を置いて、口を開いた。





「実はこのカードが完成した直後にペガサス様は何者かに襲われ――千年眼を奪われてしまったのです」


「襲われた!?」


確かにペガサスには敵が多いだろうけど、千年眼まで奪っていったって事はただの強盗では無い。
千年アイテムを知って、その価値を分かっている何者かがペガサスを襲ったんだ。


「この事は限られた者しか知りえませんのでどうか、他言無用でお願い致します」


「勿論です。それで、ペガサスはっ」


「幸い命には別状はありませんでした。今も病室で軽い書類整理等をされている最中だと、思われます」


それを聞いて、安心しつつも、胸に不吉な不安が広がった。
いつかイシズさんが童実野美術館で私に言った言葉が蘇る。千年アイテムは失われた王の記憶を取り戻す鍵だと。
胸がザワザワと静かに騒ぎ出す。不穏なモノが私の周りゆっくり、囲み確実に陰らしてゆく。


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