「この前は、ごめん」
私はほんの一瞬、迷った。でも、覚悟を決めて口を開いた。
「私を心配して、陸は童実野町に来てくれたのに、私は酷い事を言って陸を追い返した」
父さんも、母さんも、迎えに来てくれなかったのに、陸だけが私を迎えに来てくれたのに。
詰まりそうな息で一息に言い切ると、陸の顔もこれ以上見れずに大きく頭を下げた。
「――顔上げなよ、謝るのは僕の方だ。紫乃の気持ちを考えないで、無神経な事を言った」
「すぐ電話して、謝ろう。でも、何て言えばいいのか、分からなくなって。昔は出来ていた事なのに。
時間が空き過ぎて、謝り方ですら、分からなくなるなんてね。たった、少し、離れていた…だけなのに」
そう自嘲する陸は胸の前で手のひらをぎゅっと、握り締めた。
「幼馴染だからって、踏み込んじゃいけない領域があるのに、ズカズカと紫乃の中に入ろうとした。ごめんね」
辛くない訳、なかったね。
陸のその言葉で私は胸が一気に苦しくなった。そう、辛かった。
家出同然で出て行ったくせに、両親が二人揃って一緒に私を迎えに来てくれる事を心のどこかで望んでいて。
でも、それは叶わない事だとも、分かっていて。自分でも、理不尽だと、分かっている。それなのに、女々しく、望みを捨て切れなくて。
「涙目だね」
「見るなよッ」
そう指摘され、袖で目元を乱暴に擦る私に陸は「いつもより、男前だよ」この皮肉である。
私は真っ赤な目をしたまま、陸に掴み掛かりそうになった。
「じゃ、頑張ってね。僕は帰るから」
パズルカードとレアカードを押し付ける様に渡して、陸はすたすたと私に背中を向けて歩き出した。
待って、まだ私は肝心な事をもう一つ言っていない。大きな声で陸を呼び止めた。陸は振り向かずに「何」と、声だけで返事をした。
「私はもう、あの家に帰るつもりはない…だけど!あの街に帰らなくても、陸は大事な友達だから」
「それだけ、それだけは…分かって、欲しいんだ」
「そんな事、知ってるよ」
陸が笑った様な気がした。そのまま陸は片手を軽く上げ、一度も振り向かずに歩みを進めた。
END
(じゃあ、またね、紫乃)
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