「紫乃ちゃん、またねー!」
「うん、また」
玄関先で大きく手を振る遊戯君に私も軽く手を振り返した。すると、
「紫乃」
後ろから、懐かしい声で名前を呼ばれた。振り返るとサングラスを掛けた女性が、車の前で仁王立ちしていた。
某CMのお姉さんに負けないくらいそのポーズは決まっていた。ただ、本人にそんなつもりが、無い事は十分、分かっていた。
雰囲気で叔母さんが怒っている事が分かる。これ以上怒りを買わない為にすぐに駆け寄った。
「おば「お黙りなさい」
むぎゅっと、容赦無く口を塞がれた。あの、ちょっと物凄い力だと思うのは気の所為でしょうか…?
私も力は強い方だが、叔母さんのこの手を払えない。あれ、おかしいな!
「私はね、まだ二十代なのよ。おばさんって呼ばないでちょうだい」
「おびゃ、ちとしぇおねぃひゃん…!」
※千年お姉さん…!
くぐもった声で訂正をするとおば、お姉さんは私の口を塞ぐ手を外した。
ゲホゲホ……!!あぁ、苦しかった。「よろしい」
「それにしても…お姉さん、よく遊戯君の家分かったね」
満足げに頷く、お姉さんに乱れた服を直しながら、私は言った。やっぱり、遊戯君の家を教えた覚えは無いんだけどなぁ…。
「えぇ、まあね…――それより、……本当に心配したんだから」
最初の問には曖昧に頷くとお姉さんはすぐに眉を顰めた。父さん達の事や、迷子になった私の事を凄く心配したらしい。
千年お姉さんは昔から、すぐに表情が顔に出る。嘘なんて付けない人だ。
「あ、その事は迷惑掛けて…ごめんなさい」
「迷惑だなんて!私はちっとも思ってないわ」
謝ると、お姉さんは強く首を横に振ってくれた。
「兄さん達の事、辛かったでしょう…やっぱり、私が駅まで迎えに行くんだったわ」
「そんな事ないよ。頭冷やせたし…」
それに遊戯君に会えた。彼に会えて少し、楽になった。
「そう…」
さぁ、帰りましょうか、とお姉さんは車に乗り込んだ。
少し間を置いて頷き、さっきまで遊戯君が居た玄関をちらりと、見てから、車に乗った。
END
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