『紫乃、あなた何時に私の家に来るって、言ったかしら。確か私の記憶だと、十二時までには来るって、で?今何時だと、思っているの。五時よ、この五時間私がどれだけ心配したと、思っているのかしら!迷子になったのか、変な野郎に捕まったのか、まさか、まさか!誘拐、拉致、監禁?と思考を巡らせ、探しに行こうかと、いやでも、擦れ違いにでもなったりしたら…私の葛藤が分かる!?
それであなた今どこから、電話掛けているの!?』
一度も息を切らす事も噛む事も無く、五秒と言う短い時間の中で一気に喋り切った千年叔母さんは矢継ぎ早に訊ねてきた。
「え、ごめんなさい。もう一回言ってもらえませんか」
早口過ぎてなんて、言っているのか、分からないと、言い掛けた瞬間、
『は?』受話器の向こう側のおばさんの声が恐ろしく低くなった。これは怖い、かなり怖い。
「じょ、冗談です!ちゃんと聞き取りました!!えっと、今友達の家です」
『友達…?もしかして……武藤遊戯!君?』
何故か、忌々しげな声が受話器から返ってきた。
「え?えぇ、そうです。よく知ってますね。遊戯君の家で電話借りてるんです」
『そう…じゃあ、今から迎えに行くから、遊戯君の家で待たせてもらいなさい』
断られたら、家の外でもいいから、とにかく動かずに待っていなさい。
そう言うと、ブツッと言う音がした。電話を切られたのだ。
「へ?あ、ちょっと、おばさん!?」
おばさん遊戯君の家知ってるのかな?
叔母さんには遊戯君の事を話した事があるから、彼を知っているのは分かるが、私は家の住所までは教えた覚えはなかった。
「どうしたのー?」
受話器を置くと後ろから、遊戯君がひょっこりと現れた。
「遊戯君、実は…おばさんが迎えに来てくれるって言うんだけど…ここで待たせてもらっていいかな……?」
大丈夫かな、おばさん…。
「勿論、いいよ!じゃあ、おばさんが来るまで遊んでよ!ゲームたくさんあるんだー!」
大歓迎だよっと笑顔で言ってくれた。
「……うん」
また遊戯君の笑顔に釣られ、本日二度目の笑顔になった。遊戯君の笑顔は何だか…凄く安心出来る。
昔からそう感じていたが、今日はより一層感じていた。
「紫乃ちゃん、お迎えが来たぞい」
二人だけの人生ゲームなのに夢中になって遊んでいると、「美人のお姉さんじゃったのぉ」と頬を緩めた遊戯君の祖父・双六さんがやって来た。
「あ、おばさんだ」
「あーぁ。楽しかったのにな…」
もうすぐ、あがりだったのに…。
良き夫と四人の子供を授かった波乱万丈の人生は後、三マスでゴールを迎えるところだった。
名残惜しいが、回す直前だったルーレットから、指を離した。
そしておばさんには本当に遊戯君の家を知っていたんだと、変に感心してしまった。
「…遊戯君、あの、さ……。もし良かったら、また遊びに来てもいい…かな」
残念そうにゲーム盤を片付ける遊戯君。それを手伝い片付けながら、断られたらどうしようと、思いながらも、私は尋ねた。
すると、遊戯君は手を止めて私を見上げてきた。大きな目を更に大きく見開き、驚いた表情をして、すぐに笑顔になった。
「当たり前だよ!紫乃ちゃんなら、いつでも来ていいよ!」
「ありがとう…」
やったぁ!!
おっと、嬉しくて顔の筋肉が緩む感じがした。バレない様にすぐに俯いた。
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