Black valkria




「あなたはこの石板がMDの原点だと、知っていますか」


「えぇ…ペガサスから、前に少し聞きました」


実物の石版を見るのはこれが始めてですけど。
王国でペガサスが遊戯君達と闘っている最中にDMの原点を語っていた。
まさにこの石板に描かれているもの。これは紛れもなくDMのカード達。


「隣の石板を御覧なさい」


静かにそう促され、隣の石板に視線を移した。千年パズルを囲む3枚の画。


「千年パズルを取り囲む構図で3体の幻神獣が描かれています」


「幻神獣、と言うことはあの3体は…神?」


聞いた事がある。エジプトの神々達の事を。オシリスとラーと…えぇっと、後なんだったけな。
ぽつりと漏らすと、イシズさんは頷き、やや俯いた。





「えぇ、そして、この3体は神の力の如く強力な力と共に生み出されてしまった」


「まさか…既にカード化されたんですか!?」


神の力…そんな強大な力を持つカードを。だけど、そんなカードが出回れば噂くらい出るはずなのに聞いた事がない。


「Mr.ペガサスはそれを最大の過ちだと、語りました」


「でしょうね…最悪、マニア同士で血生臭い事件にもなりかねない」


現代の人間は何をするか、分かったもんじゃないからな!





「そして、その神のカードと王の記憶を巡る闘いが…この街で始まろうとしています」


「神のカードと、王の記憶…?」


神のカードと王の記憶。心の中で何度も繰り返される。
急にそんな事を言われても、普通は信じられないが私の周りではこの半年、常識では考えられない事件や、怪しい奴に出会った。
彼女の話はとても他人事とは思えなかった。それに病院で見たあの夢。砂漠の中での…。まさか、と言う思いが少しある。


「紫乃、あなたはこれから、王の記憶を取り戻す戦いに身を投じるでしょう」


「ま、待って下さい!その、記憶とか王とかってよく分からないんですけど、あの石板に描かれている千年パズルを下げているのは…」


「お察しの通り。あなたの友人の遊戯、正確にはもう一人の方です」





「じゃ、もう一人の遊戯君が…王?」


もう一人の神官の方は、海馬君?いや、でも…何でも結びつけるのは良くないかな。


「間も無く王の前に現れる敵は七つ目の最後の千年アイテムを持つ者です」


「…ずっと、知りたかったんです。千年アイテムとは、何なんですか?」


千年アイテムに関わってから、私の世界が変わってしまった。良い意味でも、悪い意味でも。
左胸が酷く痛む様にもなって、自分の中に勝手に誰かが入って来る様になった。記憶が曖昧になったり。





「七つの千年アイテム。その誕生は謎に包まれており…私も全てを知りません」


アイテムにはそれぞれ不思議な力が宿っており、中には邪悪な意志が宿るものもあります。
そして、失われた王の記憶を取り戻す鍵でもあります。
イシズさんはまた静に語り出した。鍵…と繰り返すと、彼女は私を見つめた。


「そして、王の記憶を取り戻す為にはあなたの力が必要なのです」


「私…?」


「この闘いの果てにある最後に試練に、あなたも……いいえ、この話はやめましょうか


「いや、イシズさんから、振ってきたんじゃないですか!」


ここまで引っ張っといて、それはないんじゃないですか。





「それでは紫乃、そろそろ閉館の時間となりましたので、このお話はまた改めて」


「あ、はい。えっと、すいません。お手を煩わせてしまって」


「いいえ、それではまた…いずれ」


そう微笑んでイシズさんは美術館の奥へと消えて行った。何とも、神秘的なヴェールに包まれた人だ。


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