Black valkria




「(八つ当たり、だよね。あんなの……)」


街中を重い足取りで一人とぼとぼ歩く。足が動く度に陸にぶつけた言葉を思い出す。
酷い自己嫌悪に襲われる。「本当、最低だな…」本日何度目になるか、分からないため息を吐いた。





「…ここは」


ふと、足を止めれば童実野美術館前だった。いつの間にか、こんな所まで歩き付いていた。
確か、今はエジプト展がやっているはずだ。数日前、入院中の病院で遊戯君の隣のベッドのおじいさんが教えてくれた。
新聞の広告に載っていた千年アイテムらしき、首飾りをした――女の人。


こんな暗い気持ちで美術鑑賞なんて、気分じゃないが一旦気になり出したら、気になってしょうがない。
美術館から一歩、また一歩離れるだけで、妙な気分になった。
ここで、行かなければもう二度と知る事が出来ない事がある。王国に行く前にも感じにも似た様な感覚。





気になって気になって、しょうがない。私は重い足取りで美術館に足を踏み入れた。





閉館間近で普通なら、駆け込みラッシュで込み合いそうな館内は不思議な事に私以外のお客さんはいなかった。
古めかしい歴史の遺物。別にこれといって、目を引き物はなかったがある石板を目にして、足が止まった。


「これ、は」


石板に描かれていたのはDMのカードに描かれているイラストに良く似た絵。
暗黒騎士ガイア、光の護封剣、ブラック・マジシャン、ミノタウルス、死者蘇生、青眼の白龍、
そして…何故か千年パズルが描かれていた。その周りに描かれている3枚の絵は見た事のないカードだ。


石板の中で手をかざしながら、向かい合う二人の人物。一人は王国で出会った海馬君に似ていた。
そして、もう一人の遊戯君にそっくりだった。こんな事ってあるのか。





「!」


更にその隣に飾られていた石板を見て目を見て、驚き目を剥いた。
そこに描かれていたのは王国で手に入れた不思議なカードナイトメア。
それにペガサスから譲られたギルティリナと似たものが描かれていた。


しかし、描かれたいたのはこの2体だけじゃない。他にも、何体も描かれている。
分かるのは今手元にある2体のカードだけだ。では、他に描かれているのは…。


「これは、ダーク・ナイト・シリーズ…?」


皆同じ様な鎧を纏い、その中心に描かれているのは剣を構えた、恐らく剣士。
顔は――削られて分からない。でも、この人物を知っている様な気がする。





「その石版に描かれている人物は元は王に仕えていた剣士だったのですがとても、大きな罪を犯し」


「石板から、顔とそして王と同じ様に名前を削られてしまたのです」


後ろの方から、物静かな、だけど凛とした声が聞こえた。ゆっくりと、振り向いた先には新聞で見たこのエジプト展の責任者の、


「その罪とは…何なんですか――イシズ、イシュタール」


「それは分かりません。この剣士も王と同様、歴史から、抹消されてしまっているのです」


イシズさんは首を振りながら隣にやって来て、一緒に石板を見上げた。





「始めまして、紫乃。ご存知とは思いますが、私はイシズ・イシュタール」


よろしくと、微笑んだ。その微笑は神秘的な美しさが満ちて、どこか、悲しそうだった。
どうして、私の名前を。言い掛けた時、イシズさんは以外な人物の名前を口にした。


「Mr.ペガサスにお聞きしました。不思議な力を持つあなたの事を」


「また、あの外人はある事ない事を…誤解なんです」


何故、あのデスマス外人が私の事をイシズさんに言うのか。同時に「奴か…」と、少々げんなりした。





「私には別に不思議な力なんてないんです。本当に誤解なんです!」


ふと、イシズさんの首元のネックレスに目が止まった。金色の眼のマーク。これは遊戯君達が持つアイテムと同じなんだろうか。
私の視線を受け、ネックレスを一撫でしながら、イシズさんは口を開いた。


「これは千年首飾りと言い、近い未来を見通す力を持っています…しかし」


そう言い掛けてイシズさんは、私を一度見て、ゆっくりと続けた。


「あなたの事に関しては僅か、薄っすらと…ノイズ交じりにしか、見えないのです」


「ノイズ、交じりに…?前にペガサスにもそんな事を言われました」


ノイズ交じりに見える私の心と、何か別の暗いものが見えるって…。ペガサスと同じ事を言われて、少し不安になってきた。
ペガサスの言葉を信じていなかった訳じゃないけど、違うタイプのイシズさんから、言われると重みがあるっていう事か。


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