「紫乃?」
ぼーっとしているともう一人の遊戯君が声を掛けてきた。少し間を開けてから、気付いて慌ててどうしたのと彼を見返した。
さっきまで遊戯君の事を考えていたのでドッキリとした。彼は小首を傾げつつ一切、手の付いていない私の料理に目をやった。
「どうしたも何も…大丈夫か?顔色悪いぜ」
「そ、うかな?多分寝不足なだけだから、寝たらきっと大丈夫だよ」
心配する彼に軽く笑って大丈夫と繰り返し言った。そして緩く握ったスプーンを動かそうとした瞬間だった。
「ゲェーッ!何だこれ!!?」突然、食事中には好ましくない叫び声が上がった。
「城之内君、煩いよ」
「だ、だって!目玉が…っ!?」
食事中なんだから静にしてよ。折角、食べ様としたのにと恨みがましく城之内君を睨んだ。
目玉が…目が…!と城之内君は青い顔をしてしきりにそう繰り返した。
「目玉がスープに入ってるわけ…
ホギャアアァァァアアアッ!!?」何、何これ!目玉が、目玉が!!
無いと言い掛けて自分のスープに目をやるとプカプカと浮かぶ金色の目玉。それを見て私は先程の城之内君より大きな悲鳴を上げた。
「あたしのスープにも…!」
「これは…千年眼…!!」
舞さんともう一人の遊戯君のスープにも浮かぶ金色の眼。杏子ちゃん達のスープにはそんな物浮いていなかった。
『It's show time!!』
すると陽気な声が広間中に響いた。声の主を探して部屋中を見回したが見当たらない。
広間の中心に飾られている大きな絵から、巨大なスクリーンが現れてペガサスが映された。
『皆さ〜ん!自慢のスープのお味はいかがデスか〜?』
「ペガサス!てめぇ!スープにこんなもんが入ってたぜ!」
「異物混入だ!今すぐ衛生検査してください!」
ご飯くらい心臓に優しく食べさせてくれ!
ふざけた真似しやがって。鋭い目でスクリーンに映るペガサスを睨んだ。
スープに浮かぶ目に異常に驚いた城之内君と私はスクリーンに向かって盛大に吼えた。
『Oh!それは今夜のメインディッシュデース!名付けて…』
何となく嫌な前振りだ。どうせくだらない事に決まっている。それでも聞き返してしまう人間の悲しい性。
『トーナメント・エントリー・ドキドキ?ビンゴゲームデース!!』
やっぱりくだらねぇえ!期待を裏切ってくれないペガサス。
周りからトーナメント・ビンゴぉ?と素っ頓狂な声が上がった。
『優勝戦参加者の方々には"レプリカ千年眼"が行き届いているハズネー!二人足りないですが…まぁいいでしょう』
さぁ!それを二つに割って下サーイ!
そうペガサスに促されてスープの中のレプリカ千年眼に手を伸ばした。うげ…スープが滲みてベトベトするよ。
今、きっと私の顔は露骨に嫌な表情を浮かべているだろう。眉間に皺が寄っているのが自分でよく分かる。
「中にDと書かれた紙が…」
「あたしはB…!」
「俺はAだ」
城之内君、舞さん、遊戯君と次々に千年眼を割って中に入っていた紙を読み上げた。
「く…中々割れない……あ」
割るのに苦戦した私はつい力を入れてしまい…ぐしゃりと嫌な音を立てて千年眼のレプリカが潰れてしまった。
『紫乃ガールはぶきっちょさんデスネ☆HAHAHA!ナイスナイス!』
一体、何がナイスなのか。スクリーンの向こうでペガサスがお腹を擦って笑っていた。
≪キモイわ。いい歳して語尾に☆って…≫
いじめ!いじめかこれ!別の意味でペガサスから多大なダメージを受けた。
気を取り直して潰れた千年眼のレプリカの中から紙を取り出し書かれた英数を読み上げた。
≪何て書いてあるの?≫
「F…」
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