Black valkria




『それでワ〜トーナメント表発表デース!』


スクリーンにAとB、CとD、EとFの表が映された。もう一人の遊戯君は舞さんと。城之内君と私の対戦相手覧は空白だった。
その空白はと誰かが口にした時、ペガサスが私を見た。


『紫乃ガールには聖ボーイからご指名がありました』


「…聖さんが」


良かった。また聖さんが闘ってくれる様でとホッと胸を撫で下ろした。


「ちょっと待てよ。それって対戦者を選べるわけ?」


すると、舞さんが訝しげにスクリーンのペガサスに尋ねた。その問いにペガサスはすぐに小さく首を振った。


『No〜それは聖ボーイからのただの希望デース。ですが…対戦相手がこの場に二人足りないので、好きな様に決めてくれても私は全然構いまセーン』


その言葉を聞き、私は未だに仏頂面の城之内君に向き直った。





「…城之内君」


「ん?」


「その、その聖さんって人と私が闘ってもいいかな…」


「それは別に構わねぇどけ…その聖?って奴と何かあったのか」


最初は不思議そうな顔をして、城之内君の表情がすぐに引き締まった。
微かに震える手を握り締めて大きく頷いた。彼は私の闘わないといけない人だ。
今度こそ決着を付けないといけない。あんな終わり方では終わったとは言えない。


「そうか――。分かったぜ、キースの野郎は俺に任せろ!」


城之内君は快く承諾してくれた。


「無理言ってごめんね」


「気にすんなって!丁度、あの野郎には借りがあるしよ」


「…ありがとう」


城之内君はキース・ハワードに鋭い一瞥くれると、急にこちらににかっと無邪気な笑みを向けられてちょっと気恥ずかしくなった。





『――では、組み合わせが決まった様なので…明日の優勝戦を楽しみに…See you tomorrow!』


そう言ってスクリーンから、ペガサスは消えた。元々無かった食欲が奴の所為で更に無くなり、結局あまり食べれなかった。


「それではそろそろお開きにしましょう…これより皆様をお部屋にご案内させて頂きます」


頃合を見計らい白髪の男が言った。この人はクロケッツさんと言うらしい。










それぞれ宛がわれた部屋の前に着くと、振り向いて仲間の顔を見回した。そしておやすみと一言呟いて部屋の中へと消えていった。


「それじゃあ、…おやすみ」


「遊戯、紫乃…」


別れ際に城之内君がもう一人の遊戯君と私を呼び止めた。ドアノブに掛ける指を外して、振り返った。


「明日……絶対に掴み取ろうぜ!栄光を!」


「あぁ!」


「勿論さ!」


力強く頷き返した。そうだ。掴み取るんだ。栄光を大切なモノを、その為にここにいるんだ。










何人もの人間が、たった一人を追い掛けていた。皆目をギラギラと光らせてたった一人を追い掛け回す。
裸足で埃っぽい地面を必死で走る逃亡者。今気が付いた、追い掛け回されているのは子供だった。
薄暗くて周りはよく見えない。だけど辺りからは鉄臭い…血の臭いがしていた。それから前方に――











「…ッ!」


鮮烈な痛みを感じてベッドから、飛び起きた。心臓が大きく脈打っていて浅く短い呼吸を繰り返し、額に張り付く前髪を乱暴に払った。
びっしょりと寝汗を掻いて、喉がカラカラに渇いていた。隣のベッドで眠っている千年お姉さんを見た。起こした気配は無さそうだ。
押し潰してはいけないからと隣のベッドで寝てもらった。ぬいぐるみの体ではシングルサイズのベッドも今のお姉さんにとって特大サイズだ。


それを見ていると気持ちが段々落ちついてきた。そして大きく深呼吸をして部屋を出た。
…一体、どうしたんだろう。今まで大きな病気に掛かった事は一度もない。寧ろ、健康。


「千年、アイテム…?」


遊戯君の千年パズル、漠良君の千年リング、ペガサスの千年眼、千年アイテムに関わってから、左胸が痛む様になった。
変な事に巻き込まれる様になった。まさか、それと関係でも…?そんな事無い。とは完全に言い切れない。
でも偶然にしてはタイミングが良過ぎる。壁に手をついて歩いていたら、いつの間にか夕食を食べた広間まで来ていた。
美しい女性の肖像画と不思議な雰囲気を纏うエジプト人の肖像画を見上げて何の関連性があるのかと首を傾げた。





「あなたは……何か知っていますか。シャーディー」


肖像画を見上げた。口元はしっかりと結ばれていて開く気配すらない。
当たり前だ。絵から返事が返ってくると期待して言った訳じゃない。ただの、独り言だった。





「でけぇ独り言だな」


「ほぅのんぎゃっ!?」


背後から、急にそう声を掛けられ、自分でも何と言っているのか分からない間抜けな悲鳴を上げ、飛び上がった。
飛び跳ねた勢いで目の前の壁にガン!と激突した。恐る恐る、ゆっくりと振り返って相手を見た。


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