Black valkria




「今まで、避けててごめんね」


遊戯君は何も言わない。黙って私を見上げている。私は震える手でズボンを強く掴む。今すぐ走って逃げ出したい。
だけど、そうしても、同じ事の繰り返しだ。遊戯君とは学校で必ず顔を合わせなくてはならない。
その度に遊戯君を避け続ける事なんてしたくないから、私は深呼吸をしてから、強張る口を開いた。


「…私は普通の女の子より背が高いし、女の子らしいところも全然無い」


男にばかり間違われて、スカートを穿けば女装だと言われる。
喧嘩を吹っ掛けられれば相手を返り討ちにしちゃう事もある。


「でも、そのくせ結構女々しくて、すぐに泣きそうになるし…怖がりで、本当の事は中々言えなくて」


人に迷惑ばっかり掛ける、情けない奴なんだ。遊戯君に全然、相応しくないって痛い程、分かってる。
でも、罰ゲームでも、キスしてもらって嬉しかったんだ。胸がドキドキして痛い。





「男みたいな奴に恋とかされて、気持ち悪いよね」


「そんな事ない。紫乃ちゃんは可愛いよ」


「な…」


何だって!
必死で乾いた笑いを漏らしながら、ごめんねと言おうとしたら、力強く可愛いと言われ、私は絶句した。


「小さい頃から、紫乃ちゃんは優しくて、いつも僕を助けてくれるヒーローみたいだった」


でもね、強くてカッコイイだけじゃない。可愛いとこもいっぱいある。
照れた時に小さく笑った顔が可愛い。思いっきり、笑ったら、もっと可愛い。
不器用でも、一生懸命頑張っているとこも、涙もろいとこも、怖がりなとこも、背が高いのを気にしてるとこも、小さな仕草も、全部凄く可愛いよ。





「僕なんか、小さくて全然頼りにならないけど…だけど、僕だって、僕紫乃ちゃんを守りたいんだ」


可愛い可愛いと思っていても、やっぱり遊戯君は男の子で、そして私もやっぱり女の子だった。やだ、どうしよう、凄く嬉しい!


な、何て事だ…!今ナチュラルに女の子の気持ちになったぞ、私。
生まれて初めて異性に可愛いと言われ、守りたいと言われ、体中の血が高温に沸騰している様に体が熱い。
自分の短所を可愛いと言われ、こんなに嬉しいと思った事は無い。いや、遊戯君だから、嬉しいのか。





「あの…私、」


遊戯君の笑顔は温かくて、それを見ると、凄く安心出来るんだ。辛い事があっても、優しい気持ちになる。
私は…遊戯君の笑顔と優しさにいつも助けてもらってる。私は強くなんてない。本当に強いのは遊戯君の方なんだよ。
ドキドキする心臓を一度押さえて、再び深呼吸した。


「私は、遊戯君が…好きなんだと思う。思うなんて、言い方じゃ駄目だ、ね」


恥ずかしくて、すぐに目を逸らして俯きたいけど、頑張って遊戯君の目を真っ直ぐ見て、言うと、次の言葉が痞えて、上手く出ない


「それで十分」


「大好き。紫乃ちゃん」


言いながら、遊戯君はぶら下がる私の手を取り、笑顔で私を見上げる。


「わ、たし……も」


えぇい、えぇい、動け私の口!





「好きだ遊戯君!!」


勢い余って思ったよりも大きな声が出てしまった。
ここがまだカードショップのど真ん中だと、思い出すのはこの数秒後。


無数の視線を感じ、周りを見回すと、店内にいた客と店員がポカンとした顔で私を見ていた。
突然、大声で愛を叫び出した私と、愛を叫ばれた遊戯君を交互に見て、更にポカンとしていた。
どう見ても男子生徒二人が白昼堂々、店内で手を繋いで愛を叫ぶなんて。





この後、お腹を抱えて笑い出す遊戯君を背負ってカードショップから立ち去った。





END
(ご、ごめ…っ遊戯君!きっと、変な誤解された!!)(僕は大勢の人の前で"愛してます宣言"みたいなのしてもらて嬉しいんだけどな)(あ、愛!?)


|



- ナノ -