Black valkria




くるしい…苦し、い。
喉を押さえ付けられているみたいな息苦しさに目が覚めた。最近、いつもこんな調子で真夜中に目が覚めてしまう。
バトル・シティが終わってから、より夢見が悪くなった様な気がする。


デュエリスト王国へ行ってから時々変な夢を見て、怖くなる事があった。
最初は何かに追われ必死で逃げた。次は砂漠での目を覆いたくなる様な光景。そして忘れてしまった事を責めさいなむ声を聞いた。
分かっている。全部、過去に自分が体験した事だって。時々、聞こえてくる声は全部、過去の私のものだって。


思えば全部、繋がっているんだよな。
私が童実野町に来たのも、遊戯君と再会したのも…全部、もう一人の遊戯君の記憶を巡る闘いへと。


…今は考えるのはよそう。夜明けまで、まだ時間はある。
再び、眠りにつこうと、目を閉じると、不意に誰かに額を撫でられた様な気がして、起き上がった。
勿論、誰もいない。体中に張り付くパジャマを引っ張りながら、ため息を吐いた。





「ひっでぇ寝汗だな」


自分以外の声が聞こえて、私はもしかしてまた夢を見ているのかもしれないと、小さく思った。
振り返ると、視界を何かに覆われ、再びベッドへと引き倒された。
視界を覆うものが何者かの生暖かい手のひらだと分かると、頭が一気に覚醒して、パニックに襲われる。


「ぅ、モガッ!?んーんー!!」


なになに、強盗!?
声を上げ様としたら、口を塞がれ、両手を振り回そうとすれば視界を覆っていた手が私の両手をあっと今に一束にまとめ、頭の上に。
不意にカーテンの隙間から、差し込む月明かりで影の正体が見えた。





「大声出すんじゃねぇよ。てめぇのおば様が起きちまうだろう」


それに近所迷惑だろうが。
まず、この時間を考えていない訪問自体が迷惑の何でもないんだけど!


侵入者はお隣の漠良君、の持つ千年リングに宿っている邪悪っぽい人格のバクラ君であった。
おかしいな、漠良君の千年リングは遊戯君が持っているはずじゃ…なんで彼がここにいるんだ。
大人しくしろよと言われ、何度も大きく頷くと、バクラ君はやっと、私の口と両手を自由にしてくれた。





「えっと、まずはどっから、入ってきたの君」


今何時だ…枕元の目覚ましを確認すると、真夜中の二時過ぎだった。
バクラ君は水色と白のシマのシャツに黒いロングコートな装いで、コートからは夜独特の湿気たにおいがした。


窓に決まってんだろう。こんな時間にインターホン鳴らして、玄関から入ってくると思ってんのか」


「あ、そっか。そうだよね、窓しか…って!そんな馬鹿なっ」


慌てて、彼の指し示す窓を見ると、寝る前に確かに戸締りを確認したはずの窓が全開して、夜風でカーテンが揺れていた。
うっそ。ここの鍵複雑で空き巣とか滅多に入らないって、千年お姉さんから、聞いてたんだけどな…。


「俺様を誰だと思ってやがる。こんな鍵くらいどうって事ねぇよ」


「いや、知らないよ…で、何か用?」


少し得意げに言うバクラ君に半ば驚き、半ば呆れ、用件を聞く事にした。
声を潜めながら訊くと、バクラ君はどかりっと、無遠慮にベッドに座って、私と視線を合わせた。





「急にな、お前のその間抜けな面が見たくなってなぁ」


ニタニタ笑いながら、バクラ君は私の顎をがっしりと掴む。あの、女の子相手にこの掴み方は無いんじゃないかな…!
ぐぐっと細い指が両頬に沈んで唇が突き出る。きっと、今もの凄い間抜けな顔をしているに違いない。


「そんなのいつでも、見れるじゃないか!お隣だし、それに明日学校でも…」


会えるのに。
やめてよ!顎を掴む手を振り払い、そんな理由でと、怒りが込み上げ、バクラ君を睨んだ。
だけど、次に言おうとしていた言葉は彼の表情を見て、引っ込んでしまった。
酷く愁いを帯びたそんな顔。彼のそんな表情を初めて見て、心臓に爪を立てられた様な鈍い痛みに襲われる。





「…明日は――もし…れ…ない」


本当に小さな呟きだったのでよく聞き取れなかった。聞き返すと、彼らしい不遜な顔で「別に何でもねぇよ」と、笑う。


「いだだだだっ」


それから、バクラ君は私の頬を抓ったり、髪の毛を引っ張ったり、散々私を苛めてから帰って行った。本当に一体、何しに来たんだろう。


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