「俺のターン!『ブラック・マジシャン』で城之内君の『ギア・フリード』へ攻撃するぜ!黒・魔・導!!」
「ぐわあぁ!」
適当にカードを物色している間も、他愛も無い会話でも、私には苦しい時間であった。胸が痛い。痛くてしょうがない。
デュエル大会は飛び入り参加者大歓迎らしく遊戯君と城之内君が参加しているが、私は具合が悪いと言う事で、辞退した。
決勝は勿論、もう一人の遊戯君と城之内君で、白熱した闘いが繰り広げられた。
「(…なんでだろう)」
もう一人の遊戯君になった途端、全然胸は苦しくない。心臓バクバクしないし、恥ずかしくない。
今まで、遊戯君の事は男の子にあんまり使っていい言葉とは思わないけど、可愛い友達だと思っていた。
それが、急にあんな事されて、頭の中がぐちゃぐちゃになって、思考は幾つにも分裂して、まとまらない。
喧嘩をした訳でもないのに(遊戯君と喧嘩なんて出来ないっ)遊戯君を避けて…遊戯君も何で避けられてるか分からないよね…っ!
本当になんなんだろう。まるで、あんまり読んだ事ないけど少女漫画のヒロインがヒーローに恋をした時、の……。
……ちょっと、待てよ。私今何て言った。恋してる時の…って、恋。え、ぇえええええ!?
おいおい、初恋は父さんで、以来十年とちょっとは恋するよりもされる側だった私が…
恋!?変じゃなくて、恋?遊戯君に?あ、遊戯君の事を考えるとドキドキする。
この動悸、前も感じた事がある。病院で遊戯君にヒーローだって言われて、笑顔を向けられて。
あの時は苦しくなかった。けれど、確かにドキドキしていた――あぁ!やっぱり、これって、
「本当に、恋?」
「誰が誰に?」
「私が遊戯君に………へ?」
道端で頭を抱えて、呆然と呟くと、まさかの問いが返って来てつい答えてしまった。
今日は独り言が多い日だな。口に出ていた事に気が付いて、一体、誰に言ってしまったんだろうと振り向くと、
「もう、デュエル大会も終わって、城之内君帰っちゃったよ」
ちなみにもう一人の僕が勝ちました。
もう一人の遊戯君ではなくて遊戯君が。そしてデュエル大会は終わって、城之内君はさっさと一人で帰ってしまったらしい。
「そ、なん、だ」
からからとした声で笑いながら、瞬時に脳裏に過ぎるのは"終わった"と言う文字。
うああああああ、やっちまった!最近本当にやっちまったばかりだ。どうしよう本当にもう。
「ねぇ、それより……今のホント?」
可愛らしい唇から、答えを優しく促され、泣きそうになる。
ごちゃごちゃと、どうすればいいか、頭が真っ白になった。
「うん…多分」
頭が真っ白になったらなったで、つい頷いちゃうし!多分ってなんだよ。遊戯君に失礼だろうが!
それでも、そう言った途端、恥ずかしくて、恥ずかしくて顔中に熱が集まる凄く熱い。
口から心臓が飛び出しそうだ。でも、それは物の例えで、実際そんな事は起こらない。
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