Black valkria




「はい、紫乃」


「へ?」


これあげる、と手に何かを乗せられた。あ、これさっき売店で買ってきたやつかな。
先程、杏子ちゃんは売店で何かを買って、もう一人の遊戯君に渡していたし。
私にもくれるなんて。感激しながら手のひらを覗き込むと……青い手のひらの目と目が合った。あれ、何言ってんだ私。


だって、本当に青い手のひらみたいなのに目玉がくっついているんだもの!
何だろうこれ。これはペンダント、いや、チョーカー?
指先についたビーズが揺れて、シャラシャラと良い音を立てている。私は「これは?」と杏子ちゃんを見返した。


「それファーティマの手のアミュレットって言って、エジプトに昔からある魔よけのお守りなんだって。
紫乃は大変な事が多かったみたいだし、変な事にも巻き込まれやすいから…きっと、これからもっと大変な事があると思うの」


だから、それで守ってもらえるといいなぁって。


「あ、杏子ちゃん…!ありがとう、ぐす…ッ大事にするね」


ありがとう、本当に、杏子ちゃん。
本当は皆がいなかったら、逃げ出したいくらい今怖いんだ。手も足も震えて、上手く体が動かせないんだ。


「おい、杏子。紫乃をいじめんなよ」


「ほらほら、早速彼氏の出番だぞ遊戯!慰めてやれ」


「え、いや…!そ、それは相棒の役目なんだぜっ」


「煩いわよ、あんた達!」


皆のお陰で私はここに立っていられる。前に一歩ずつ進めたんだ。強張る手でアミュレットをそっと握り締めた。










「これが噂の石板…!確かに遊戯にそっくりだぜ!横に描かれてるのは海馬…!?」


「隣りの石板に描かれているのも…紫乃が持っている『ダーク・ナイト』にそっくりだ!」


「じゃあ、これが紫乃さんの……」


初めて、石板を目にする人達から声が漏れる。
千年パズルを囲む神々、その下には闘う白き龍と黒き魔術師を従える王と神官の石版。
そして無数のモンスターに囲まれ、剣を携えた顔を削られた人物の石版。
ここで、初めてイシズさんに出会って、私は自分の運命の一部を知って、恐怖したのをよく覚えている。


あの時から、今の今までずっと、怖かった。だけど…。
杏子ちゃんに貰ったファーティマの手のアミュレットを胸の上で握り締め、私はゆっくりと石板を見上げた。





「紫乃…大丈夫か」


「うん、大丈夫だよ」


皆のお陰でちょっとは笑える余裕があるんだ。
今はここにはいなけれど、遊戯君だって君の中にいて、見守っていてくれているし。
小さく笑うと、ほっとした様にもう一人の遊戯君が少し表情を緩めた。


もう一人の遊戯君は過酷な闘いを闘い抜き、自身が何者であるか、ずっと探し続けていた。
私はと言うと、自分の運命に目を背いて、嫌だ嫌だと怖がるばかりであった。
だけど、皆や、色んな人達のお陰で漸く向き合う事を選べた。


"三枚の神のカードをこの石版にかざせ"そう墓守の一族のマリクの背中に刻まれていたそうだ。


一体、これから何が起こるのか分からない。でも、すぐに答えは出るはずだ。
表情を引き締め、もう一人の遊戯君は石版に神のカードを、私も隣の石版の前でダーク・ナイトのカードをかざした。
すると、二枚の石板が眩い光を放つ。目を開けていられない程の光に腕で目を覆った。


途端、見えない何かに強く、引っ張られた。
腕を、体を、足を、魂を、全てを。抗う事を許さない強い力に。





そして、真っ逆さまにどこかへと落ちて行く。





END


|



- ナノ -