Black valkria




「昔、一族は一つ…でも守るアイテムでいくつかに分裂した。でも一族敵じゃない!ボク千年錠の意志で遊戯さん達の前に現れた!」


何も言わずにもう一人の遊戯君はボバサを見つめる。
見てくれはかなり怪しいけれど、千年アイテムに宿る邪悪な意志に操られている訳ではなさそうだ。


「突然現れたボク…すぐに信じる…それ無理!でもボク、あなた達の旅のお供する事になる!」


「そしたら、いつか…ボクの事信じてくれる時必ず来る。その時は千年アイテムをボクに預ける!ボク歩く金庫番!!命懸けて守るよ!」


彼からは悪意は感じられない。ボバサは不慣れな日本語で懸命に言葉を紡ぐ。





「仮にあんたを信用しても、こいつは預けねーけどな!」


今まで無言だったもう一人の遊戯君はやっと、口を開き、千年パズルの鎖を握り、不敵笑う。
どうやら、ボバサを信じる様だ。私ももうボバサを変質者扱いして殴る気もない。


「分かりました。それまでこの二つの千年アイテムはボクが保管するよ!肉の金庫一番安全」


肉の金庫とやらにはバトル・シティでもう一人の私がアメティスタさんから奪った指輪を納めるスペースは無かった。
やっぱり、あれは数のうちには入っていないんだ…。


「さっきは殴って、悪かったね」


「紫乃さん、細いのに、強くてビックリしたよ」


全然気にしていないと、笑いながら、ボバサは上着を着て、服に付いていた三つの鍵を全て閉め、その鍵を呑み込んでしまった!





「ウォッホン、本題に入ります!」


大きな咳払いを一つすると、ボバサは急に真剣な面持ちになり、膝を付いて頭を下げる。


「遊戯…いえ、王の魂。そして――黒き女神の魂の生まれ変わりよ。あなた方はこれから、記憶の世界に旅立つ…そして再び自らの運命に出会う…!」


今までの拙い口調が嘘の様にしっかりとしたものへと変わり、纏う雰囲気もまた変わった。


「それはもう一人の遊戯君と、失った記憶と」


「紫乃の前世…」


「それがどんなに過酷なものでも目を背ける事は出来ません。そして…あなた方も」


私と遊戯君を交互に見て、最後にボバサは城之内達にも目を向けて言った。
目を背ける事の出来ない運命。何かが肩に重っ苦しく圧し掛かるが、もう怖いと、立ち止まれない。





「ボバサ…お前は俺と紫乃の記憶…そして千年アイテムの秘密をどこまで知っているんだ」


「全ての謎の答え――記憶の世界にある…それをあなた方の目で確かめる…」


もう一人の遊戯の問にボバサはそう答えた。


「さぁ、参りましょう。美術館へ」


ボバサに促され、その大きな背中を追う様に美術館に足を踏み入れた。





記憶の世界。それがボバサの言った言葉以上に過酷なものだと、今の私達はまだ知らなかった。


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