Black valkria




-放課後-
茜色に染まる優しい夕暮れ時を歩く私達にはもう、浮ついた雰囲気は無い。私達は今、童実野美術館の前にいる。
ここにもう一人の遊戯君の失われた記憶の秘密と、私の前世がある。美術館前の階段を上がろうとしたその時、


「武藤遊戯様に…鏡野紫乃様ですね。お待ちしておりました」


階段の上から、怪しい大男が現れた。褐色の肌に分厚い贅肉にターバン。
急に現れたいかにもな怪しい人物は遊戯君と私の名前を知っていた。
こう言った輩には大体、良くない事に巻き込まれたりするのが多いので、皆で警戒していると、





「ボク…ボバサ!遊戯さんの千年アイテムを守る…ボクの役目!」


片言で大男はボバサと名乗ると、徐に上着に手を掛け、


「墓守の一族、シャーディー様の命を受け…あなた達のお供をする」


そして公衆の面前で、上着を脱ぎ、上半身を晒した。


「この破廉恥野郎が!」


猥褻物陳列罪で警察に突き出してやる。


「ふぉぐおぁっ!?……な、殴らないでぇ!ボバサ敵じゃないよ!」


「コイツ…只者じゃない」


確かな手応えを感じたのに大男はすぐに起き上がり、涙ながらにそう訴える。
「自分よりも倍以上はある巨漢を殴り飛ばしたお前の方が只者じゃねぇよ」と本田君の鋭いツッコミが入る。
でも、本田君のツッコミよりもボバサと言う奴の体に目が釘付けになってしまう。





なんと、千年アイテムを埋め込むくぼみと、そのくぼみに千年錠と千年秤が収められていた。





「だけど、人前でいきなり服を脱ぎ出す野郎の言葉なんか信じられるか、この変質者!」


千年アイテムなんて、体にくっつけて!未成年に何てエグイものを見せるんだ。
ほら、もう一人の遊戯君なんか、あまりの事に青い顔してるじゃないか、可哀相に。





「そうだ!それにデブチン!てめーの持っている千年アイテムは以前、俺達を闇のゲームで危険にあわせたシャーディーって野郎の物のはずだぜ!」


絶対に信用出来ねー!
噛み付く様に城之内君も言うと、ボバサは不慣れな日本語を使って必死に言葉を紡ぐ。





「確かにボク…墓守の一族。ずーっと、シャーディー様にお仕えしてきたよ!でも敵でも変質者でもない!シャーディー様の命を受け、遊戯さん達を守る為にやって来た!」


「シャーディーの命…!俺達を守るだと……」


その守ると言う言葉が出てきて、もう一人の遊戯がやっと反応を示した。


シャーディー。私がその名前を初めて聞いたのは王国へ行った時だった。
ペガサスの城に飾ってあった肖像画で彼の存在を知り、何故だか誰かに似ている様な不思議な感じを覚えた。
遊戯君達は私が童実野町に来る前から、シャーディーと出会い、随分と危険な目に遭わされたと聞いている。





「シャーディー様はあなたが三千年待ち続けた王の魂かどうか…闇のゲームで確かめただけね!」


墓守の一族は王の魂と千年アイテムを見守る事が使命よ!


「以前、墓守の一族のマリクって奴が俺達の命を狙ったぜ!」


未だに警戒心の解けない城之内君がまたまた噛み付く様に言う。杏子ちゃんも険しい表情で頷いていた。
マリク。彼はある誤解から、復讐心にとらわれてう一人の遊戯君と、その仲間の私達の命を狙っていた。
今は誤解も解け、日本でサムライに出会う事を夢見る普通の少年に戻り、エジプトで平和に暮らしているはずだ。


マリクに嘘の情報を与え、もう一人の遊戯君に復讐させる様に仕向けたのもシャーディーだった。
彼はもう一人の遊戯君の命を危険に晒す真似を何度もしている為に私もボバサの話を簡単には信用出来ない。


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