Black valkria




「私は――お前が恐ろしかった」


えぇ、ほらそうでしょう。
アクナディン様の人の心を読む力のある千年眼を使わずとも、私がどう感じているか分かっておられたはず。
その上で、アクナディン様はそんな私に優しくして下さった。それは一体、何故なのですか。


「お前は私の罪の証。お前を見る度に私は自身の罪に責め苛まれた」


「アクナディン様の罪…?」


「だか、恐れていただけでもないのだ」


恐れを抱きつつも、お前に優しい言葉を掛けている内に、亡くした子供とお前を重ねていた。
お前と過ごす時間は私の罪、そして亡くした子供を必ず思い出させた。苦痛だった。けれども、それだけではなかったのだ。
静かに告白を続け、そこで一旦言葉を区切ると、アクナディン様は一度項垂れ、私に真っ直ぐと向き直る。


「私はいつしか、お前の事を本当の我が子の様に慈しみ、愛する様になっていたのだ」


愛だって。


私は疎まれ続けていた。別にそれは苦痛ではないし、仕方のない事だ。私にはどうする事も出来ないし、今更どうする気もない。それが当たり前だったから。
だから、愛や愛されるという事が分からない。恐れていると言うのに愛しているなんて尚更訳が分からない。


「これから、私が語る真実はお前にとって残酷なものだろう。だが…お前にだから、聞いてもらいたいのだ」


アクナディン様が語り出そうと、唇を動かし掛けた時だった。





「そいつの話は信じない方がいいぜ」


背後から、突然現れた気配。
この声は忘れもしない。





「バクラ、それは」


すぐそこに目をやると、先日王宮に奇襲を掛けたバクラの姿があった。
馬鹿な、あの厳重な警備を、突破してきたと言うのか。
だが、驚くのはそれだけではない。奴の首にぶら下がっているあれは、


「千年輪…!」


マハード様の、やはり、あの方は奴に。


「アクナムカノンの墓で神官を一匹ぶち殺したっけ…千年輪は戦利品だ!そして…これからが始まりだぜ…」


そうそう、と白々しくバクラが言いながら、嫌な笑みを浮かべる。


「俺様が手に入れる戦利品は全部で八つ…」


「貴様…何故、隠された千年宝物の存在を……」


千年宝物は七つと伝えられ、一つは王の持つ千年錘。後の六つは六神官様達に。
八つ目の千年宝物の存在等噂の一つも聞いた事が無い。
しかし、バクラのその言葉にアクナディン様はぶるぶると震え出し、酷く狼狽している。


「隠された千年宝物…?アクナディン様、千年宝物は七つではなかったのですか」


本当、なのですか。
尋ねてもアクナディン様の目にはバクラしか映っていない。





「何にも知らないそいつにてめぇの都合の良い話を真しやかに吹き込むんじゃねぇよ」


激しい憎悪を宿す瞳がアクナディン様を貫く。
バクラは何をそんなに怒っているのだ。アクナディン様は何故、怯えておられるのですか。





「――何が、我が子の様にだぁ?貴様が、王家が、俺達に、そいつに何をしたのか忘れちまったワケじゃねぇだろう。

貴様がそんな事を言う資格なんてねぇんだよ


叫んでいる訳でもないのにバクラの言葉がやけに大きく響いた。けれど、けれども、私には何を言っているのか分からない。


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