お話しましょう

012

 あのとき。僕は、笑って好きな人はいないと否定した。ただ、そう言ったときに浮んだ顔がある。

 どうして彼はあんな風に聞いてきたのだろう。僕は、ただの平凡で、環境の点から恋愛は諦めている。僕はヘテロなんだ。そりゃ、生徒会の人たちはかっこいいなぁともあんな風になりたいなぁとも思う。でも、それは恋愛対象じゃないだろう。単なる憧れで、よくある思春期のもので。

 それでも。

「どうした、さっきからため息ついて」
「別に、なんでもないですよ」

 あの質問でふと浮かんだ顔があった。ないない、とすぐに打ち消したあの顔。彼女が何度も繰り返すから、それに感化されたんだ。結論はそれで締めだ。

 ふと、視界の端を赤みがかった金色が過った。見上げれば、真面目な表情をした生徒会長が立っている。差し出された手には、空になった弁当箱。ひとまず受け取って鞄に詰める。

 ぽふり。

 下を向いた僕の頭を何かが撫でた。暖かいそれがゆっくりと動いて、意外にも力強くて、それなのに優しかった。声が漏れそうになって唇を噛んだ。離れていく温もりを追いかけて顔をあげれば、すらりとした会長の姿が目に入る。

 滝本の綺麗な金髪とも、セイの元気に跳ねた金髪とも違う。わずかに滲んだ赤みが太陽光を反射した髪色に温かみを宿している。ずっと見ていたくなるような色。その下で、鋭かった目をすっと細めて眦を下げた。
 あたたかい。どうしようもない変な悩みが、しこりが、解けて融けて消えていった。

「…そういうのは、恋人にしてあげてください」

 これがあるから、この人は人を惹きつけるのだろうか。あんまりにも優しい顔をしてるから。勘違いする人も多いに違いない。そして、あのとき過ってしまったのも、単なる彼のカリスマ性を思いだしただけで深い意味は一切ないんだ。結論を繰り返す。僕はヘテロ。彼女の策略には乗らない。

 僕の言葉に首を傾げた会長を尻目に、僕は、荷物をまとめ始める。

「…ああ、そうだ。櫻木のことなんだが」

 会長から齎された幼馴染の名前に嫌な予感が身体を動かした。勢いよく目を合わせたせいか、一瞬だけ目を瞠って彼は言葉を続ける
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