お話しましょう
013
「彼女、よく放課後に人気のないところへ自ら突き進んでいくんだが、なんとかできないか」またかよ、という言葉を飲み込んだものの、僕の眉間には深い皺が刻まれる。なんともいえない楽しそうな笑顔で校舎裏を練り歩くセイを容易に想像できてしまった。彼は、その不機嫌を拒否ととって眉尻を下げる。
「個別行動をとる理由がわかればそれを教えて貰うだけでもいい。あとは、こっちで…」
「いや、僕がなんとかしますよ」
彼女の理由は十中八九あれだ。あの観察だ。バードウォッチングならぬ腐ウォッチングだ。行動を窘めるには、理解者からの忠告が最適だと思う。おそらく会長に腐れ魂については話していない。どこかで痛い目を見たのか、彼女の隠れ方は筋金入りだ。適当にあしらわれて終わりという顛末と予測できる。
「…悪いな、頼ってばかりで」
眉尻を下げて少し情けないような表情で苦笑いを浮かべる。何度目かの謝罪。押しつけているのは、こちらなのに。会長は、どうも人の面倒を見たがるタイプらしい。頼まれたからとはいえ、今でも十分してもらっているサポート程度で構わないのに。
「余分な仕事は周りに分担した方がいいですよ」
「そうか。でも、桜井も最近大変だろう」
毎日のように浴びる視線と自由奔放な彼らが脳裏を過った。正確に事態を把握しているのだろう。会長だけは、生徒の前で会って話すことをしていない。
週一の昼食も、半分はセイのためだ。彼女に危険が及ばないように情報をできるだけ共有している。上に立つものとしての能力なのか、会長は様々な人間の動きや正確な事態の把握などを得意としていた。彼から聞く報告のおかげで、僕は忠告という形で彼女の安全を図っていくことが出来る。
本当に、この人には頭が下がる思いだ。
「いつもより少しだけ騒がしいだけです。直に慣れます」
慣れる、というより、慣れさせるだけど。話し合いをする相手としてリストアップしていたいくつかの名前を思いだした。いい加減に対処していった方がいい。早めに動き出そう。
「…わかった。それじゃあ、御馳走様」
くしゃ、と再び頭を撫でて長い脚が通り過ぎていく。掻き回された髪を簡単に直す。そうしながら、僕は滝本の質問を思いだしていた。太陽光だけじゃない温もりが指先を通り過ぎていく。