夕焼け色
002
その日から、放課後のこの時間は、加東と一緒にいるようになった。先生が補習を始めるまでの十分から二十分程度。短いけれど、いつのまにか僕はその時間を楽しみにして学校に通うようになった。
「吉岡って、薄いよな」
「は…何が?」
「全体的に」
ふいに言われた言葉。夕焼けの待ち時間は、引っ込み思案な僕に軽い口を与えてくれたのか、加東が意外に話しやすいのか、僕たちは結構すぐに仲良くなった。互いに自分のことは話さず、ただあの雲が狐に見える、今日の鬼熊が教師のくせに爆睡したなどとささいな出来事を話す。平凡な僕と、何をやっても目立つ不良な加東。友人と呼べるかわからない、淡い時間を共有する関係。
「全体的…って、僕が背が低くてなよなよしてるって言いたいのかよ」
「そうだな」
あっさり言ってくれるな。確かに、髪も薄い、肌も青白い、背も低い、体重も平均より少し下になるから、どうしても存在感といったものが出にくいんだけど。地味な顔立ちというのも、その存在感の薄さに一役買ってると思う。
「どうせ、加東みたいにイケメンじゃありませんよー」
しかめっ面をした僕を見て、加東は噴出した。なんだよ、そんなに変な顔だったか。
「…ッ…いや、悪い…かわいくて…」
今、変な単語が出てきたような。どうやら加東は、僕をパグか何かだと思っているらしい。あんまり笑うから、加東の頬を引っ張った。のびるのびる。何か喚いているが、無視して頬を伸ばす。
「おおー、さすがのイケメンも崩れふぇ」
加東の方も、僕の頬をつまんで伸ばした。話してる途中だったのに、そのせいで平凡が口にするには少々痛い口調になってしまった。
「ひゃはへ」
「ほっひほほ」
先に音を上げたのは、僕だった。指を離して自身の頬をつまむ手を離すように促す。加東は、夕陽の中でにんまり笑ってつまむのをやめた。と、今度は僕の頬をつぶすように挟んでくる。
「はは、…おもしれぇ顔」
つぶれた顔を見て、彼は笑った。夕陽が彼を照らして、その表情が僕を捉える。満面の笑みで、すごく楽しそうな顔で、その青い瞳の中に僕を映していた。
その僕が、どことなく潤んだ眼をしたように見えた。その瞬間に理解する。あの悪い癖が出てきてしまったことを。
夕焼けが、教室内に差し込んで、僕らの影が長く伸びていく。
「気をつけてたのにな…」
落とした言葉がてんてんと床に転がった。