夕焼け色

003

 僕は、同性愛者だ。

 それが、平凡な僕の唯一の特徴だと言ってもいい。迫害されがちなマイノリティであるそれは、たやすくカミングアウトできるものじゃなかった。
 バレないように、もしくはバレてもいいように。僕は男子校を選んだ。山奥でもないし、近くに女子校があるから、同性愛者が多いわけではないけど、まだ同性愛についての偏見は少なかった。
 それでも、クラスメイトとはある程度の距離を保っていた。彼らに惚れる、なんて事態が起こらないように、と。

 それなのに。彼に惹かれてしまった。

 これ以上は、駄目だ。好きになってしまったから、彼には嫌われたくない。彼にゲイだとバレてしまえば、あの時間は最悪な形で消えるだろう。隠すことは難しい。きっといつかは彼に悟られてしまう。

 どうあがいてもそうなるのなら。僕は自分からあの時間を切り離すことにした。


 綺麗な夕焼け。僕は横目で見ながら足を動かした。切り離す、と決めてから、夕焼けは見ないようにしていた。夕焼けを見れば、同時に彼の姿を思い出してしまうから。噂と違って優しくて楽しくて、とても素敵な人だった。いや、だからこそ噂通りに引く手あまたなんだろう。

「彰宏(あきひろ)さん!」
「わっ」
「ぼやっとしない。彰宏さんは、主役ですよ」
「は、はい…」

 僕は、今、年に一度行われる祭事のために稽古を受けている。若者が少ない田舎で、今年は僕が神楽を踊る番だった。ずっと続いている伝統行事。一年前から厳しい稽古が続いていた。

「祭まであと一か月。ようやく本腰を入れてくれるかと思いきや…まだ学校で勉強させる方がマシでしたね」

 手厳しい師の言葉に、苦笑いしか浮かばない。彼女は、神楽に関して重要な役職についてるらしい。毎年、彼女が舞子の家に来て教えてくれる。
 稽古があるから、放課後残ることは許しません。一年前に言われた、そんな言葉が蘇る。本来なら、夕焼けを見る時間は稽古に注ぎ込むべき時間だった。それでも、他の時間すべて捧げてなんとかすると約束し頼み込んでなんとか手に入れることができたのだ。
 そして、一週間前。満足したし、祭まで一か月もないからという理由を告げ、普段より早く帰ってきた僕を彼女は歓迎してくれた。

「ほら、また足!」
「はいっ」

 彼女の鋭い指摘が飛ぶ。普段使わない筋肉で、いくつもの動きを身体に叩き込まなければならない。それは、夕焼けの時間を忘れさせてくれるに十分だった。
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