夕焼け色
001
今日も、先生に言いつけられた用事を終わらせて、窓際の席に移動する。窓際の、一番後ろの席。そこが一番夕焼けが綺麗に見えた。僕は、夕焼けが好きだ。
全ての授業が終わって、遠くなった喧騒の中、赤く染まった暖かな空気。影絵のようになった生徒たちが動くグラウンド。真っ赤に燃える太陽。
その全てが好きだった。だから、晴れの日は、いつも眺めていた。
夕陽が作り出す真っ赤な世界を眺めて、夕陽が沈んだら帰る。その繰り返しだった。
だけど、その日は違った。
「あれ、吉岡?」
教室に響いた誰かの声に、驚いて振り返る。
まず、目に入ったのは、オレンジに染められ、ワックスで無造作に作られた髪。透き通った青の目。オニキスが嵌め込まれたピアス。端正な顔と周囲よりも一際高い身長、着崩した制服は、とても堅い印象をもったものには見えなかった。
加東喜一(かとうきいち)。
有名な不良でクラスメートだった。
彼は、出席率は悪く、喧嘩は強く、態度も悪い。典型的なただの不良かと思いきや、頭よし顔よし運動よしと教師としては、目の上のたんこぶだった。
噂では、彼は強いくせにどこのチームに属さないから、どこからも勧誘されているという。また、男も女も引く手数多という人気ぶりだとも聞いている。
「お前も、補習?」
「え、いや…その…夕陽を見ていた」
「も」、ということは、きっと彼はこれから補習なんだろう。そういえば、この間の期末テストに姿が見えなかった気がする。補習も参加しないかと思っていたけど、そうじゃなきゃ学年上位の成績なんて無理だということを思い出して、納得した。
「ふぅん…」
「結構、綺麗だよ。ここからだと」
最強の不良。そんな噂を聞いていたのに、なぜか、そのときは怖くなくて。気付けば、僕は、加東を自分の前の席に呼んでいた。彼は、ちょっと躊躇ったあと、目の前の席に座る。彼が夕焼けに目を向けた。
オレンジの髪が、真っ赤に照らされて輝いたような錯覚を起こした。薄くぼんやりとした光に包まれて、顔立ちのよさも相まってどこか気高い存在のように見える。
「綺麗…」
「ああ、すげぇんだな、夕陽」
気付かず零れたそれに返された言葉。彼が気付いていないことを幸いに、自然を装って夕陽に視線を戻す。何を言えばいいのか分からず、そうだね、とぼんやり返した。