maskingtape

018

「そ、そうですけど……」
「あまり社交的じゃない菊井が、そんなに話せる相手って気になるなぁ」

 名前は聞いてきたんだろうな、と問われ、大きく頷く。

「泰正って名前なんだそうです。漢字も教えてもらったんですけど、すごく、名前の雰囲気に似合う人でした」

 安泰の泰に、正しいと書いて、泰正。まっすぐな彼の気性によく似合っている。他愛ない話ばかりだったが、最近は、少しずつプライベートな話題も振るようにしている。お互いに苦手なものがある、と話したのだ、とまで伝えたとき、同僚の笑顔がどこかぎこちないことに気付いた。

「どうしたんですか?」
「うぅん、いや、……なんでもないよ。しっかし、なんだか恋する少女のような顔で話すね、菊井は」
「恋? 冗談いわないでください。相手は、男ですよ」

 それに、そもそも同僚の視界には、帽子と紙マスクで顔のほとんどを覆った人間がいるだけだ。話が面白くなかったから、適当な感想でもいっているのだろうか。しかし、彼の気質からは、そんな風にいうとは思えない。

「あれま。男、男かぁ……」

 同僚は、いまだ撤回する様子を見せない。新しい友人ができたことに対して、変にはしゃぎすぎてしまったのだろうか。

「男だろうが女だろうが、恋は関係ないんだけど」

 考え込んでいた太一に、同僚のその一言は聞こえなかった。

 ◆◆◆

 冷蔵庫を覗き込んでひとつ溜め息をついた。マヨネーズに辛子が少々。どこを見ても主食がなかった。財布と帽子、紙マスクを身に付け、玄関前に立つ。ドアスコープの小さな穴を眺めて一言。ドアノブに手をかけた。

 久々に入ったスーパーのロゴが入った袋を抱え直す。普段、通販ばかりの身なので、思った以上に安い金額の食材たちに考えていた以上のものを購入してしまった。冷凍食品は、できる限り減らしたものの、早く帰らなければならない。上を見れば、枯れ枝にぽつぽつと小さな芽がついている。そろそろ春が訪れるだろうか。咲き始めるのは、いつだろう。そう考えながら歩いていると、ふと声援が聞こえてきた。動きを止めて耳をすませば、聞き覚えのある名前を拾った。

 きょろりと周囲を見回せば、それなりの大きさの公園が目に入る。なかなかに広大なそこは、ベンチやトイレだけではなく、遊具施設も整っている。近所の学校に通う子供たちが、遠足として連れてこられた光景を何度か目にしたことがあるほどだ。

 今、園内を動き回っているのは、青のユニフォームを着た一団。土日の部活動の一環らしい。その背中には、高校の名前とサッカー部と大きく記してあった。

 試合形式ではなく、それぞれが1対1の練習をしている。一方がボールを狙い、もう一方が守る。奪われれば、その役目は交代だ。もみ合う彼らは、生き生きとしており、真剣に取り組んでいた。
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