maskingtape

017

「おー、調べたのか、菊井。詳しいじゃないか」
「はい。サッカー自体をあまり知らないので、いろいろ調べているうちに」
「なんでまたサッカーに興味出たんだ?」

 今までの会話の中で、スポーツに興味があるようなそぶりはなかった。家の中に引きこもりがちの年下の同僚が、どこから興味をもったのだろうか。内田の疑問は、当然だろう。

「あ、えっと――内田さんには話したと思うんですけど。あの、コンビニで会った人が、サッカーやってたらしくて」

 そう言いながら、太一は、同僚を見上げた。
 背が高い彼は、三十代後半だと聞いているが、それを感じさせないような若々しさがある。色あせた金色のツーブロックにした髪。耳のあたりの部分はトライバル柄が刈り込んである。全体的にやんちゃそうだが、目元の笑い皺とえくぼのおかげで、愛嬌に見えるから不思議だ。監督の叔父ほどではないが、ぴんと背筋を伸ばして歩いて行く作り込まれた体躯は、とても大きくて頼りがいがある。太一のひょろりとした体とは、天と地ほどの差があり、ひそかに憧れていた。

 スポーツをすれば、あんなふうになれるだろうか。そう思いながら、ふとその横顔に泰正を思い出す。薄い唇、一筋通った鼻は少し鷲鼻に近く、彫りが深い顔立ち。それになによりも、目元が似ていた。

「どした、菊井。不惑も近いおっさんの顔見て楽しいかい?」

 同僚に問われ、そこで初めて太一はずっと彼を見ていたことに気付く。慌てて訂正する。

「あ、その――さっき言ってたコンビニの人にどこか似ていたものですから」

 顔の雰囲気が、と続けて、苦笑いを浮かべる。最近、何かにつけて泰正のことを思い出している自分がいるからだ。似ていると思ったのも、偶然だろう。

「へぇ、噂のコンビニの君(きみ)か」

 にやにやと笑いかけてくる同僚。彼には、以前もその話題をふっていた。そのうえ、彼のアドバイスのおかげで、泰正の名前を知ることができたのは、記憶に新しい。
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