maskingtape

015

「俺の場合は、太一とは違うんだけどさ。話すとき、相手のことがわからなくなるっていうか。つい、いらないことまで言っちまう、みたいなんだ」

 相手を想像することができない。何を考えているのか、相手の好悪はどんなものだろうか、どんな風に伝えればいいのか。そういったものを考える前に、言葉が出てしまう。

 事細かな自分がとってしまう態度を伝える彼の言葉には、「みたい」「らしい」という単語が多く出てきた。彼自身の考えではないのだろう。だが、言われたその言葉に対して、引っかかりを覚えている。だからこそ、こうして、太一に話してくれているのだろう。

「だから、太一は、こう、苦手なんだろ? 相手と話すこと自体が。俺は、話すと相手を傷つけるみたいだから、なんか、難しいっていうか」

 ああもう。頭をぐしゃぐしゃにかき乱して、彼は、唸る。

「あの、なんとなく、わかるから大丈夫だよ」

 先ほどいっていた通りに、相手を傷つけないようにする物言いを探しているのだろう。だから、今までのようなすっぱりとした言葉ではなく、曖昧な表現が多い。

 そして、太一の苦手という発言を汲み取って、なんとかしようと心を砕いてくれている。そのことがわかった。もしかしたら、そういった配慮は、今までしたことはないのかもしれない。だからこそ、こうやって唸っているのだろう。

「今まで考えたことがなかったところ、なんだよね?」
「まぁな。別に、いらないだろって思ってたから」

 いらないと思っていた理由は、なんだろう。そう考えるが、太一も泰正もこの話をするにあたって、根本的な原因や事情を話していない。無理に聞けば、この話は消えてしまう。そんな気がした。

「だから、もしかしてだけど、俺に対してどうすればいいかわからないから、決めてほしいって話なの、かな」

 最初の彼の答えを思い出す。どうすればいい、と聞いてきたときの彼の真剣な目を。相手の意思を汲み取れないなら、聞くしかない。だから、直球勝負で、彼は、聞いてきたのだ。もっとうまいやり方は、あっただろうに。ここ一ヶ月ほどで知れた彼らしい一面だ。

「そうなる」
「じゃあさ。一緒に、練習しようよ」

 俺は、誰かと会話する練習。泰正くんは、誰かを考えて会話する練習。不器用なもの同士だからこそ、きっと悩みも共有できるだろうから。太一は、マフラーと帽子の隙間から、泰正を見る。真剣な夜色の目を。街灯の光が、彼の目に星を投げかける。

「わかった。じゃあ、これからもよろしくな」

 歯を見せて笑う彼は、とても輝いて見えた。
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