maskingtape

013

 ぽ、と暖かい何かが胸に灯る。じんわりと浸み込んでいく。目の奥、そして頬に。

「へ、たい、な」

 太一を見て一瞬動きを止める泰正。ざっと一気に青ざめた。わたわたとこちらに手を伸ばそうとして中空に留まる。何かをしようとして途中でやめてしまった中途半端で妙な動き。ぼやけた視界に映るそれは、ひどく滑稽で思わず噴出してしまう。

 今度は笑い出した彼に、泰正は、思考停止に追いやられる。いきなり泣いたと思ったら、次は笑っている。彼の中で一体何があったのか、皆目見当もつかない思考回路。

「なんでも、ない。うん、ごめんね」

 ありがとう。そう言って微笑む。溢れ出る涙を拭い、泰正を見た太一は、澄んだ目をしていた。




 街灯に集まる蛾が、ぱたぱたと音を立てて飛び回る。コンビニから少し離れた公園の中。入り口から少しわけいったベンチに二人は座っていた。

 二人の手の中には、缶コーヒー。間におかれた袋の中には、二人で平らげた惣菜の包み紙が入っている。あのあと、涙を止められなかった太一に慌てた泰正が、この公園まで彼を引っ張ってきたのだ。

 二人で飲み食いするうちに、太一の涙もなんとかして収まる。太一の手の中には、彼が買ってきてくれた惣菜の最後のひとかけら。新しいフレーバーはおいしかったが、少々塩辛かった。

 ちらり、と隣を見る。涙をこぼす太一に、彼は、何をいうでもなく、ただ隣で飲み食いしていた。さすがに、太一よりも早く食べ終えてしまい、今は手元から立ち上る湯気を、ぼんやり眺めている。
 何を考えているのか読み取ることはできない。視線を落とせば、缶コーヒーが目に入る。視界がぼやけたままでうまく動くことなどできるはずもなく、今、手元にあるものはすべて泰正が持ってきたものだ。
 お礼を、いわなくては。
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