maskingtape

012

 紫色の空の向こうからなげかける光が、短くなっていく。今にも地平線の向こう側へ姿を消してしまいそうな太陽を見ながら、体中を刺すような寒さの中を歩きだす。一般的な夕飯の時刻すら超えた短針を確認し、いつもの景色よりも活気が減った帰り道。

 ぼやけた視界とぼんやりした感覚に、何も言わず蒸しタオルを渡してくれた同僚を思い出した。いつもより小さいだろう目元をほぐしながら、今日の献立を考える。しかし、浮かぶメニューに決定打はなく、ため息が口をついて出た。

 ふと見えてきたおにぎり百円セールの文字。普段利用しているコンビニだ。この時期、よく残り物を半額で売っている。そして、さまざまな人間が利用する場所でもある。特にセール中の人混みは、なかなかのものだ。また、近くに地下鉄の出入り口があるという立地のおかげもあって、盛況している部類だ。

 今日も、足は、止まらなかった。女々しいなぁ、と呟いた癖に、それでも足は速度を増した。叔父に吐き出したおかげで、息のしづらさは少なくなったものの、人が多い場所に向かうことが難しい。

 そういえば、あれから泰正に会えていない。もともと、毎日会う、というわけではなかった。それぞれが、似たような時間にコンビニの前で会えば、一緒に食べる、という程度だった。けれど、これほどコンビニから遠のいたことはない。そろそろ、彼に会いたい気持ちが燻っていた。

「太一ッ」

 鋭く響いた声。すわ幻聴か。そう思っても、どこか請うようなそれは、踏み出しかけた足を戻すには十分だった。
 振り返れば、記憶にあったとおりの姿。どこかで運動してきたらしく、ジャージにタオルを引っかけただけのラフなスポーツ少年。大寒も過ぎて多少は過ごしやすくなったとはいえ、まだまだ肌寒い。年齢差かな、とぼんやり考えていると、泰正は、目の前まで走ってきて立ち止まった。

「久しぶり――その、今日は食べないのか?」

 濃紺の鋭い目が、力なく伏せられる。そこで思い出す。あの日、泰正とは、「また明日」と言って別れたのだ。
 そんな簡単な事実に思い至ったのは、彼の手に新商品の惣菜が握られていることに気付いてからだった。一週間前、太一が売り切れで買えずに悔しいとぼやいていた品物。
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