逃走劇

007

 争奪戦のルールは簡単だった。一週間、放課後だけ鬼ごっこをする。逃げるのは俺。追いかけてくるのは、四人。俺の力が欲しいとかほざいてるチームのトップたち。人数に差が大きかったため、人数を限定した結果である。ちなみに範囲は、学校の敷地内。放課後の部活動に励む生徒諸君は、一体どうするのだろうか。まぁ、なんとかするか、鬼さんが。

「お前、俺に過大な期待を寄せてないか」
「おお、今日は作戦会議とか言って俺の面倒を見ようとして優しくて素敵なリーダーシップを発揮しちゃう鬼さんじゃありませんか」

 長台詞を言いきった俺を見て遠い目をした赤毛鬼さん。かくれんぼだったらこの人まっさきに見つかるよなと思いながら、弁当箱から取り出した焼きそばパンを頬張る。現在は、昼休み。不良の定番、屋上である。やたら説明っぽかったが、状況はさっきの通りだ。開催期日はすでに明日に迫っており、どうやって逃げようかとワクドキしながら授業をこなした。それを心配したのか、鬼さんが作戦を立てようと話しかけてくれたことがきっかけ。

「…部長には話を通してある。それに、できるだけ邪魔はしないようにも手配した」

 人数を活かしてクレムのメンバーが応援兼野次兼バリケードをしてくれるらしい。楽しい事が大好きな人種が多いようだ。壁が楽しいのかは置いといて。
 それにしても、予想以上だ。不良なんだから威圧感で全部通すものだと思っていたのに。

「圧迫政治しないんですね」
「……もしかして、恐怖政治か」

 もしかしなくてもそれです。歴史は苦手なんだ。考え方がめんどくさくて。

「そういうことしたら、反発が来るだろ。お前にも」

 一般人を巻き込む。そのことについて鬼さんはどうも責任を強く感じているようだ。さっきから俺の負担をどうにかして取り除こうとしている。

 最初は、大きな声で威圧してきて顔が目に痛くて、間違えた、髪も目に痛い人だなっていう印象だったのに。この人、実は喧嘩強くて巻き込まれていっただけだったりしちゃうんだろうか。

「鬼さんのルーツはどこですか」

 眉間に皺を寄せて怪訝そうな表情。その威圧感はまさに不良だけど。唐突な質問は認めるので、経緯を話す。まともな対応多すぎて不良っぽくないんですけどぉ。やべ、眉間の皺が増えた。

「喧嘩ふっかけられる内に取り巻きが出来てたってのは確かだけどな」

 意味深な間だ。鬼さんの視線が宙を見る。優しい顔になった。目の前に女の子がいたら頬を染めてるだろう。男の子もそうかもしれない。さすがイケメン。ちょっと淋しそうな顔すればいいと思っちゃって。

「憧れた人がクレムにいたんだよ…ってなんだその顔」

 夕焼けが似合う表情に引きずられそうになって顔を引き締めていたら、気持ち悪いものを見るような視線を送られた。それはドMに進呈してくれ。きっと期待に応えてくれる。

「なんでもないです。というか、憧れだからって不良チームに入るのはどうかと思いますよ」

 強さに憧れたのなら、どこかの道場や教室にでも通えばよかったのだ。そうしたら、ちゃんとした強さが身についたのに。ちゃんと大人に評価してもらえたのに。

「そばにいたかったんだっての」

 少し遠くを見るその顔がなんだか気障でどうしようもなく気持ち悪く思った。それをどう解釈したのかさっぱり分からないけれど、隣の赤い人は俺の頭を撫でてくれた。きっと、この人は捨て犬拾って最後まで面倒見ちゃうタイプだ。

 ごすっ。いい感じに拳が入った、と思ったら受け止められてた。さすがとしか言いようがない。

「おっま、ほんと油断ならねぇな! 懐いたかと思えば噛みやがるとか、猫か!」

 やめて。紫頭の目立ったり目立たなかったりする人を思い出しちゃう。

「作戦を伺いたいです。用意周到な鬼さんなら用意してるんでしょ」

 さあ、出せやコラ。ここに来た目的忘れんな。キレた母をなぞるように巻き舌と眉間に力を入れる。呆れ半分で作戦を話し出す鬼さんを横目に、狭心症の心配ありかもしれないと明後日の方向へわざと思考を進めた。
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