maskingtape

005


 ◆◆◆

 それがぽつりぽつりと繰り返されて、気付けば一ヶ月が経っていた。
 大寒を過ぎ、寒さが緩んできた。そろそろ、マフラーと帽子を外してもいいかもしれない。職場の帰り道に、スポーツ用シューズを履いた青年と合流して、たわいのない話をして、帰る。食べるメニューは、適当だった。二人ともに味付けの異なるチキンを選び、一部を交換しあった日もあれば、暖めてもらった大判焼きをわけあったときもある。

 トマトスープを手に取り、レジへ通す。ほとんど顔見知りとなってしまった店員が、太一の顔を見て、さっと小さな袋におしぼりを追加した。

「ありがとうございます」

 軽快な音がして、後ろの電子レンジからスープが取り出される。ほんのりといい匂いがカウンターに充満し、思わず、すんと鼻を鳴らしてしまった。それに気付いたのか、店員から「今、キャンペーンやってますよ」と何かのキャラクターとのコラボのチラシを見せられた。そこには、サッカー少年が美味しそうにスープを飲んでおり、それにちなんだ新しい味のスープデリが明日発売するというものだった。

「今日買っていただいたレシートに割引券がついているので」

 もしよければ。にっこりと微笑む店員。優しい笑顔に心臓が飛び跳ね、慌ててお礼を言って商品を受け取った。駆け足気味に店から出る。一気に冷気がまとわりつき、太一は、ぶるりと体を震わせた。

 出入り口から数歩離れ、そっと店内を伺う。店員は、特に気にした様子もなく、ほかの客と会話していた。

「あ」

 レジに並んで二番目に、頭ひとつぶん背の高い人影。毎週会っている彼だ。後ろ姿からでもわかるのは、それだけ目立つ容姿だからだろう。そして、彼の番となり、営業スマイルの店員が出迎える。
 先ほどまで浮かべていた笑顔が、一瞬こわばり口を空けてしまった。少々間抜けな表情。目を見開いたまま、彼の顔を凝視している。自分もあの人と同じ状態だったのだろうか。初めて会ったときのことを思い出し、マフラーを口元に持ち上げる。もう一度見れば、彼女は懸命に笑顔を維持しながらレジを打っていた。

 明らかに、好意的な反応だった。顔がいい、ということを改めて実感する。会う人会う人に、そんな反応をされたら、心地いいだろうか。脳裏に、先ほどの店員の表情を思い描く。
 だが、浮かんだ人物は、ごちゃごちゃの線がひっきりなしに動いて、うまく像を結ばなかった。きっと、悪い反応よりはいいだろう。そんな雑な感想で結論づけた。
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