maskingtape

004

「え、これ」
「その、貰って嬉しかったから」

 あの場所で冷たくなっていた指先も温まった。貰った暖かい食べ物は、コンビニのものなのにとても美味しくて。だから、お礼をしたかったのだ、と。青年は、視線をそらしながらも意識はこちらに向けたまま、理由を言いきった。

「それに、わざわざ買ってきてくれたじゃん。あれ、俺のためだろ」

 その場の勢いでしてしまった行動だった。ものがなかったから買ってきただけ。それでも、彼は、そんな風に捉え、わざわざ同じ商品を探してこうしてお返しをしてくれている。

「だから、さ。それ、返す」
「その、あ、りがとうございます。いただきますね」

 もう一度。今度は丁寧に頭を下げた。その拍子にマフラーが落ちかける。太一は慣れた仕草でそれを元に戻しながら顔をあげ、今度こそどこへ行こうと一歩踏み出した。
 ぐるるる、と何かが唸るような音を耳にする。間近に聞こえたそれを追うと、彼が恥ずかしそうに頭を掻いた。

 この前よりは暖かくなった場所で、湯気を立てるシチューパイをつつく。隣の彼は、おでんにかぶりついていた。

 コンビニの軒先で、寒空の下、知り合いでもない二人が料理をつつく。時折、互いに目を走らせていれば、目が合うのも当然だった。太一は、マフラーの奥でくすりと笑って、隣の青年に話しかける。

「あのときは、いつ帰りましたか」
「貰って食べて、すぐ」
「じゃあ、八時ぐらい、ですかね」
「そっすね。……今日は、まだあったかいよな」
「はい。明日は、また雪が降るらしいですけど」
「電車止まらねぇかな」
「それは、どうでしょうね」

 ぽつりぽつり、と雪の代わりに降り積もる会話。たわいないことばかりを互いに言い合いながら食べ終える。ごみを片付けると、それじゃあ、と短い言葉を交わして帰路についた。



 次の日。おざなりな店員の言葉を背にして、コンビニを出ると、昨日見たばかりの靴が視界に入った。有名ブランドのスポーツ用シューズ。少し古ぼけているものの、大切に使われているのか目立ったほつれは、ない。

 視線をあげると、先週末と昨日の彼。目があった瞬間、同時に笑みを浮かべる。いいタイミングのそれに、またも同時に苦みが混じった。
 その日も、同じようにシチューパイとおでんを食べて話して解散した。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -