棘


『僕はずっと貴方様にお仕えします』



『ふふっ、そういうのをストーカーっていうのよ。』



『名前様のでしたら光栄です。』



『じゃあ、約束してね。“次”も、私だからね。』



『はい、お約束します。』



絡められた小指と守られなかった約束



“キミ”は覚えているだろうか









「…またこの夢か。」


寝るたびに同じ夢を見るのは勘弁してほしい


しかし、その夢にすがっているのはまぎれもなく自分自身で




「…そろそろ行きますか。」


時刻は逢魔が時


日はもう傾いていた









「けほっけほっ」


咳をすれば口から血が溢れる


今晩はすこし傷が深かったようだ。



「その怪我はどうなされたのですか!?」



ラウンジの扉を開けるとひとりの男性が駆け寄ってきた。


スーツを着ているから誰かのSSだろう


「もしかして新しい入居者のSS?」


オッドアイの彼は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに表情を戻した



「はい、白鬼院凜々蝶様のSSをさせていただいております。御狐神双熾と申します。」



ドクンッ


「御狐神双熾…?」



「はい。それよりお怪我は?このような時間に外は危険です、何をしておられたのですか?」


御狐神、双熾



ドクンッ



「怪我は平気よ、貴方は妖狐の先祖がえりね。」


御狐神がぴくりと反応する


「そんな殺気立たないでよ、私は苗字名前。天狐の先祖がえり。」


天狐、っと聞くと御狐神は膝をついた


「貴方が天狐様でいらしましたか。失礼いたしました、お勤めご苦労様です。」


「いいのよ、ところで貴方、前の記憶は持っているの?」


すこしの期待と共に言葉を紡ぐ


「残念ながら持ち合わせておりません。」



「…そう。」


絆創膏を貼るために彼の手が頬に触れるとぴくりと反応してしまう


「すみません、痛かったですか?」


「…平気。」


手当てが終わるとお礼もそこそこにラウンジを後にした




「何を期待していたのかしら。」



“前”の記憶を持っている先祖がえりなんてほんの一握り



わかっていたはずなのに




次もなんて補償はなかった




その証拠にあれから彼に巡りあう事はなかった


…なのに、


今になって他の誰かのSSとして再開するなんて


この時間にラウンジにいたのはきっと主人の為


『次も貴方様の元で。』


「そう言ったのは貴方でしょ、双熾…」


刺さったら棘はまだ抜けそうもない。







「…んっ、もう9時か。」



鏡を見ると昨日の傷はもうなかった




「お腹空いたな。」






ラウンジに“凜々蝶様”はいるのかしら?






そんなことを考えながら部屋を出た









「あ、カルタ!おはよう。」


ラウンジからは髏々宮カルタが出てきた


「あだ名ちゃん…おはよう。」



「ラウンジに新しい入居者はいたの?」


「…いたよ、きっとあだ名ちゃんが心配するような子じゃない…っと思う。」


カルタは名前の指にとんがるコーンをさすと行ってしまった


「心配…ね。」


私が心配しているのは彼女じゃないと思う


忠実で優しすぎる犬の方


「おー、名前じゃん。入んないの?」


「おはよう、連勝。んー、ちょっとね…」


困ったように言うと反ノ塚は首を傾げて


「俺の部屋くる?野ばらが作った飯あるぜ。」


「いくっ!」


「即答だな。」


「野ばらの料理好き!」


先程とは全然違う態度だが反ノ塚は慣れたように笑った。


「じゃあ行くか、足元気を付けろよ。」









「お邪魔します。」


3号室に入るとスーツを着た野ばらがいた。


「あれ、お仕事中?」


「なに、反ノ塚。ラウンジにいったんじゃ…」


パソコンのキーを打ちながら言う野ばらだったが名前を見るとバァンと勢いよくパソコンを閉じた。


「メッ…」


「くるんじゃないのーこれ。」


連勝がのんきに言う


「メニアーック!ゆるっとした黒ニットから見える白い肩…寝癖がついた髪、萌え袖、眠そうな瞳…メニアック!」



野ばらは一息で言うと名前に抱きついた


それを慣れたように受け止める


「おはよう、野ばら。」



「おはよう名前ちゃん。」


「…連勝が野ばらの朝ごはんがあるって言ってたけど嘘みたいだね。」


連勝はばれたか、っと頭をかいた


「そんなにあの子に会わせたくない?」


「いや、そういうわけじゃないんだけどさ…凜々蝶とお前、合わないと思うんだよなぁ…」


「あら、そんなのわからないじゃない?名前ちゃんが気に入っちゃうかもしれないでしょう?」


野ばらはそう言うとキッチンに向かった



「せっかく来てくれたんだもの、何か作るわ。」


「ありがとう。」


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