犬と犬


カルタが常盤森林公園にいると聞いて向かおうと思ったが病み上がりだから、と残夏に止められ名前はおとなしく妖館の自室に帰っていた


「ふぅん…」

口元に笑みを浮かべ名前は意識を集中させた






『…ボクの視たアレが今夜起こらないとも限らないし。』

アレ、とは何をさすのか私にはわからないが恐らくは凜々蝶の事だろう


『でもね、そーたん。運命は変わらないよ。大きければ大きいほど…』


双熾に向けての言葉なのに、残夏の一言が私の胸に突き刺さる

『回避できた様に見えて先延ばしになっただけだったり、別の人がその運命を代行したりね…』

今までは回避できていた。

これからもそうしていくだけ…しかし私には思ったより時間がないみたいだ。


(…覚悟を決めなくては…)

『じゃあ今夜0時集合で。』

まるで死刑の宣告をされたように私の心はからっぽだった。


今夜0時、全てが終わり始まる。






私の生きる目的は双熾

私を生かすも殺すのも双熾

それでいい。

私の命は彼のもの。


私の命は彼の為に

それがいい。





「本能に抗うな。アンタの中に眠る妖怪の本能の儘、生きればいい。」

「あの…時の…!」

「そう、迎えに来たんだ。アンタが居ると便利だし仲間に入れてやるよ。光栄だろ?」

そして彼は変化を解いた

「百鬼夜行をしようぜぇ。短い、ほんの一瞬の泡沫の祭りを共に…」

彼の足元から氷がつき出す

「おっと!」

「何よ『泡沫の祭り』?リアル中2が…ぞくぞくする程恥ずかしいわ。脳内だけに止めてくれる?」

「まあ待て、録音して10年後に再生する羞恥プレイはどうだ!」

「大丈夫ですか、髏々宮さん。」

野ばら、蜻蛉、双熾が言う



「残念、もうこの女はオレの仲間だよ。こいつらと一緒のね。」

「…何ですって?そこに居るのはカルタちゃんと同じ状態の…同じ先祖返りだっていうの!?」

「本当はもう1人いるんだけど、もうそろそろ来るんじゃない?」

ニヤリと笑う彼




ガキィンッ

カルタの後ろから飛び込み首を狙ったが防がれる

「チッ!」

「ホラ、きたよ。狐ちゃんが。」

「「「名前!!!」」」

「次は外さない」

何度も、何度も刀を構え向かっていくが弾かれる

「まだ術が効かないの?もうそろそろキツいはずだけど?」

「黙れ」

私の一撃をかわした彼に野ばらの氷が向かってくる



「どうしたの?やらないの?同じ先祖返りだから?」

氷は彼の喉元で止まっていて

「でもそれじゃアンタ達がやられちゃうんじゃない?狐ちゃんみたいに殺す気でこなくちゃ。」

連続で向かっていったせいで少し息が上がっている私を見てアイツが笑う

「それともアンタらも仲間になるぅ?仲良くしようぜ、妖怪は妖怪らしくね。」






「いつ目覚めていたのだ。」

「昨日の夜。屋上での会話も全部聞いてた。」

蜻蛉と背中合わせになり先祖返り達の相手をする

「よく残夏が許した、な!」

相手が死なないように急所を外して切りつける蜻蛉

「…残夏は私に時間がない事を知っているから止めたりしない」

「私も止めないぞ。」

「…え?」

「名前は隠し事が上手いようだがドSの私にはバレバレだ。」

「ドS、関係なくない?」

蜻蛉と違って私は容赦しない

相手の急所をしっかりと狙い確実に仕留める


「関係ない、そうかもな。」

「…蜻蛉?」

「惚れた女の事だ、嫌でもわかる。…行け。」

あぁ、彼にはお見通しみたいだ

「ごめん、ありがとう。」






たくさん心配をかけてごめんなさい

何でもない顔をして一番心配してくれるのは貴方だったね

旅先でほぼ毎日送られてくる写真付きのメールも今では懐かしい

旅先でバカみたいにはしゃいでいる姿をもう見れないのは少し寂しい

たくさん嘘をついてごめんなさい

貴方の気持ちにも気づかないフリをしていた

今だからちゃんと言うね、私に好意を寄せてくれてありがとう


今まで、いっぱい、いっぱい

たくさんの優しさを

ありがとう、蜻蛉。







「ふぅん、まだ動けるんだ。」

木の上で眺めている彼、犬神 命

「生憎、術の類いには耐性があってね。」

言葉の間に斬りかかり防がれ、弾かれる

「狐ちゃん、君はオレの大切な仲間だ。できれば傷付けたくない、大人しくしてよ。」

「なにが仲間よ…刹那を殺したくせに!」

「あれぇ、思い出してるんだ。でもアイツは狐ちゃんが殺したんだよ?」

「刹那はお前の術にかかって衰弱していた!」

「熱いねぇ、ちょっと黙ってもらおうか。」

スッと私の懐に入り込んだ犬神は私の鳩尾に蹴りを叩き込んだ


「ぐっ、はっ!」

木に叩きつけられる

「少し眠ってな、狐ちゃん。」





揺れる視界で双熾がこちら側にやってくるのが見えて、意識を手放した

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