めぐり逢い


全部終わったら、また話そう

そう言えばあれから双熾とまともに会話をしていない。凜々蝶とお喋りの続きもしていない。蜻蛉の旅にこっそりついていく計画も、カルタとスイーツ食べ放題も、野ばらとショッピングも、卍里とカルタのプレゼントを買いに行くのも、連勝と遊園地に行くのも

残夏と馬鹿な昔話するのだって

なにひとつ終わっていない。

私今まで何してたんだろ。

悔いの残らないように生きてきたつもりだったけどやりたい事はまだまだいっぱいあってきっと一生かかってもやりきれない。

そっか、みんなにはもう会えないんだ

瞼を開くと涙が頬を伝った


「…いかなきゃ、ね。」

さよならもありがとうもタイムカプセルに残してきた

もう、思い残す事はない。


「最後の大仕事よ。」

刀に力を込めると大きくなり熱を帯びた

今まで力を封じていたが命をエネルギーに強くなる妖刀を解放するのは今しかない


「…待っててね、双熾。」


今度こそ私が護ってあげるから。






「…さて、髏々宮さん始め他の先祖返り達を元に戻して貰いましょうか。ついでに目的も教えて頂きましょう。」

「ケホッ、ずるくね?数人がかりなんてさぁ…」

「とんでもない。これは幻影ではないので1人でも負った傷は全てに影響します、全部本物の僕です。間違いなく一対一でしょう?」

「めちゃくちゃな言い分…でも、それを聞いて安心した。」


ドクンッ

「!?」

「呪いだよ、もう現れたのか。」

双熾の胸には呪いの印

「潜伏期の長さは区々。がしゃどくろは何ヵ月もかかったけどアンタはこんなに早いのか。まぁ狐ちゃんはもっと長いけどな。」

「苗字さまも…?」

「一年ぐらい前かなぁ?まっ、今はどうでもいいか…アンタも狐ちゃんももうすぐ自我の消えたただの妖怪になる。」

犬神はニヤッと笑う

「そうなる前にオレにお願いしてみる?それともオレを殺してみるぅ?それで呪いが消える確証はないけど…」





犬神を殺して呪いをといてみんなで帰れたら、

みんなが笑ってるそんな未来が待ってる。


でも、そこに私はいられないんだ


左目はもう見えない足も動かない

薬で蝕まれたこの身体じゃあ呪いを解いたとしても命は長くない。

でも、犬神を殺して呪いを解くことが彼のためになるのなら…


私は、

この命さえ

惜しくないの


あぁ、前に視た展開通り

私のやることはひとつだけ


「双熾っ!!!」

考えるより先に重たい足をの出せる限りのスピードで飛び込んだ

双熾の服を掴み思いきり押す

彼は後ろに倒れこみ、犬神の刀が私に迫る



ドッ…

目の前に迫った刀はゆっくりとスローモーションのように私のお腹を切り裂いた

皮膚が鋭利な刀で裂かれ肉が斬られる感覚がダイレクトに伝わって時間差で痛みを感じる


「カハッ…」

痛い、いたい、イタイ

「あれぇ、狐ちゃんもう起きちゃったの?まぁその傷じゃ永遠におやすみだけど。」

これで双熾の死の代行ができたなら

「苗字さま!何を!今止血をします!」


“今回”は満足

「いいよ、無駄だから。私は死ぬの。」

斬られたお腹だけじゃなくて全身の細胞が悲鳴をあげていて声を出すのもつらい

「っ、苗字さまっ…!すみません、僕のせいで…」

苦しそうに眉を寄せる双熾

その目に涙はない


「…謝らないで、双熾…」

双熾が私のために泣く事はないとわかっていたし期待もしてなかったけど

「…苗字、さま?」


あぁ、やっぱりかなわないなぁ


「凜々蝶を、守ってあげてね。」

凜々蝶、やっぱり双熾は貴女しか見えてないんだね。


「…はい…!」

「それ、から…」


伝えなきゃ、


「もういいです!喋らないでください!」

伝えなきゃ、


「双熾…」

彼の頬に手を添えて




「…あ、いして…た。」

これが、私の本当の気持ち。


「苗字、さ、ま…?」

こんなときまで苗字さま、なんて最期まで冷たい人。


でも、

「愛してたよ、さよなら…双熾…」

真っ暗になった視界に苗字さま、と呼ぶ声が何度も聞こえて頬に何かが落ちるのを感じて


それから、

ほとんど聞こえなくなった耳に最期に届いたのは





名前さま、と呼ぶ貴方の掠れた声。











覚えていますか、初めて会った日の事を

寂しそうな顔の貴方の力になりたいと思いました、助けたいと思いました。


覚えていますか、貴方が初めて泣いた日の事を

貴方の初めての涙はどんな気持ちで流したのかはわからなくって、貴方をもっと知りたいと思いました。


覚えていますか、初めて笑った日の事を

小さな飴をあげたら大切そうに握りしめて笑顔になってくれて、そんな貴方を守りたいと思いました。


覚えていますか、初めて怒った日の事を

近所の子供と喧嘩をして傷だらけになって帰ったら貴方はとても怒ったけれど、息を切らして駆け寄ってきてくれてうれしかった。


覚えていますか、私と過ごしたあの日々を

出会った時にからっぽだった貴方の心が少しずつうめられていくたびにとても幸せな気持ちになりました。


悲しさも楽しさも苦しさも嬉しさも切なさも愛しさも

貴方に教えてあげられましたか?



何も知らない、人間らしさを失った可哀想だった貴方にも今は大切に思える人がいる、仲間がいる。

貴方の心の片隅にでも私はいますか?


貴方なら覚えていてくれる、


そう願っています、そして


未来を生きてください





歳月が巡って 声を辿って

また生まれ変わったら

真っ先に君に会いに行こう。



愛していました。

最後まで、この日まで。

それでも終わりにするのは私なのですか

君の幸せな未来を、

ただ、願ってる。




君のいる世界で笑ったこと、


君の見る未来を恨んだこと、


君の声、


温もり、


態度、


愛のすべてに




さよなら。







さようなら、愛した人。




妖狐×僕SS 第一章 End

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