今は同じ月の下



「髏々宮さんの容態は…!」

息を切らして駆け寄ってきた凜々蝶と双熾

「普通の人間ならとっくに死んでる…先祖返りだから何とか持ちこたえてるけど…油断はできない状況だって…」


ガタンッ

「なんで…っ!なんで何も視えなかったんだよ!」

「おい、渡狸…」

連勝が止めるが渡狸は聞く耳をもたない

「いつもいつもどうでもいいもんは視えるのに何でカルタがこうなるって分かんなかったんだ!」

「渡狸、落ち着けって。」

「関係ない奴が口出すな!カルタの事心配じゃねーんだろ!」

「聞き捨てならないわね…カルタちゃんの事心配してないですって?」

「野ばらちゃん…」

「そうだろ!同じマンションに住んでるってだけの今だけの馴れ合いだろ!同じ先祖返りじゃなきゃ縁もゆかりもない他人じゃねーか!ハンパな感情で口出すな!!」


「視える事もあるよ、無力な自分が歯がゆいんでしょ?」

「だからやめろって…」

「強くなりたいとか守りたいとかいっちゃって〜何も出来ない自分にイラだってるんでしょ〜?まぁそれは、この目が無くたってみんなに見えてる事だけどね〜」

「てめ…っ」

「やめろって言ってんだろォ!」



「病院ではお静かに…!」

「あ、スイマセン…やめようぜこんな時にこういうの」

カルタは生死をさ迷っていて名前は目覚めない


「分かるだろ…」

なにもできない

みんなが無力だった。





「カルタちゃんも渡狸も元旦に実家に帰る予定だったんですって?大晦日は二人で過ごそうって…」


「…名前は?」

「名前ちゃんはお家の事とかあって大変なんだろうけど、夏目が無理言ってね…」

「名前は何を望んでいるのだろうか、夏目くんと仲がいいみたいだが…」

いつも僕らを気にかけて他人のために一生懸命だと思えば傍観して


「そっか、凜々蝶ちゃんは知らないのね。妖館の中庭の隅の花壇にチューリップが植えてあるでしょう?」

「あぁ、言われてみれば…」

「あのチューリップはね、夏目と名前ちゃんが“前回”植えたものらしいの。」

「2人はそんなに前から知り合いなのか?」

「さぁ…私たちと違ってあの2人は特殊だから…でも名前ちゃん、夏目といるといい顔で笑うのよ。」


『本人に言うと怒るけどね』っと野ばらはつけ足した

場に似合わず2人は微笑んだ

「早く目覚めるといいわね…」


みんなですごしたあの平穏が再び訪れるのかどうかなんて、誰にもわからないけれど






「渡狸くん…」


カルタの病室で静かに目を閉じている彼に凜々蝶は声をかけた



「…毎日一緒だったんだ。」

渡狸はぽつりと言った

「特別な理由なんてなかった。ただそうある事がしっくりくる様な、『自然』で『当然』の事だった。」

膝の上で拳をきつく握っていた

「これからもそうだと思ってたのに…強くなるとか守るとか言っておきながら俺…っ」

渡狸の目からこぼれ落ちるのは自分の不甲斐なさ、頼りなさ、怒り、後悔


『絶対目を覚ます』

『大丈夫』


根拠がなくてもそう言うべきだったのか


言えなかった

彼女が眠ったままになってもう随分時間が経っていたから

そして、僕は持ってきて花束のひとつを置いて病室を出た

名前は妖館の自室で眠っている

夏目くん曰く『いつものこと』らしいが回数を重ねる毎に目を覚ますまでの時間は確実に長くなっていた

部屋に入るとベットサイドには夏目くんの姿

名前の左手を握って寂しそうに微笑んでいた


「ねぇ、名前…いつまで寝ているの?」

いつもはおどけた表情ばかりした彼がこんなにも悲しそうに喋る姿を初めて見た


「…ちよたん、そこにいるんでしょ?おいでよ。」

僕がいるのが視えたのだろうか夏目くんは僕を呼んだ

「…すまない、声をかけようと思ったんだが、」

夏目くんは席を立って言った

「ボクはもう戻るよ〜。ちよたん話していってあげて」

いつもの笑みを浮かべて夏目くんは出ていった

「…みんな君を待ってる。」


コーヒーフィルターを買いに行ってお茶をした時、名前は自分の事を蔑むように話していた

自分は醜いと、汚いと

妖館のみんなと話をするようになったのもここ数年の事だと


『最近ね、みんなと話をするのが楽しいんだ。』

そう言っていたじゃないか

僕はもっと君と話したい

聞きたいことだっていっぱいある

あの日の話の続きだってまだしていない


「お願い…お願いだから早く起きてくれ…」

何を言っても変わらずに眠り続けている彼女に別れを言って部屋を出た






『さぁ、視えるかな…?カルタたんはどこに居る…?』

響く声、感じる妖気

「…ざ、んげ」

あの声は残夏のものだ

彼の身体が弱いことは名前はよく知っていた


「…行かなくちゃ、」

ベッドから降りて一歩踏み出すと膝から崩れ落ちた

「…ハハッ、そんなに長い間眠っていたのか。」

名前は震える身体に鞭をうって部屋を出た




大栄会病院の特別室

カルタの病室のベッドに残夏は倒れるように身体を預けていた


「残夏、」

その背中にそっと触れる

「…名前…?」

残夏の細い目が開かれる


「おはよう。」

「っ…おはようじゃないよ。どれだけ心配したと思ってるの…」

普段おどけた顔ばかりしている残夏からは想像できないくらい悲しい顔だった


「残夏…ごめん、ごめんね。」


『でも君の声はいつも聞こえてたよ、話しかけてくれてありがとう。君が私を目覚めさせてくれたんだ。』


『目覚めなかったらどうしようって、そればっかりだったんだ。君のいない世界なんて想像したくなかった。』


お互いの気持ちが相手に視えていたのか、

それともあえて言わなかったのかはわからないけど


その瞬間は

かつての二人に戻れた気がした





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